「彼を中に来させて、座らせて上げなさい。」ミス・スマイズは言った。
「それは大変ご親切なことで。」
サラーは、どれだけ頻繁に、このドアを通って、狭く散らかったホールへと消えたのだろう、と嘆かわしく思った。ここ、Xの家の中に僕はいた。多分、フックの茶色いソフトゥ帽は、彼のものだ。僕の後釜の指―サラーに触れ―今開けたこのドアの取手を毎日回した指。雪で鉛色の午後を通して燃えているガスーストウヴの黄色い炎に、ピンクの傘の付いたラムプに、クレトン更紗の緩めのカヴァの屑綿に。「私は、貴方の可愛らしい少年に、水の一杯でも取って来てもいいのですが?」
「それは大変ご親切なことで。」僕はさっきそう言ったのを思い出した。
「それともオリンジ‐スクワシュなんかは。」
「君は悩まなくていいから。」
「オリンジ‐スクワシュ」若者は、断然言った。又間を置いて「どうか」、彼女がドアを通って行く時。とうとう僕たちだけになり、彼を見た。彼は、クレトン更紗の上で、背中を曲げながら実に具合が悪そうに装った。もし彼が僕にウインクをしなかったら、僕は、多分、かどうか不可解に思った・・・ミス・スマイズがオリンジ‐スクワシュを運んで、戻って来た。そこで僕は言った。「ありがとうと言いなさい、アーサ。」
112