https://naritaetuko.jp成田悦子の翻訳テキストとちょっとしたこと

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2022年3月31日木曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

  「爆弾が二つも、一か所に落ちない。」僕は言ったものの自動的に、それはしばしば誤りを立証して来た迷信の一つだったから。

 「貴方は怪我をしているのね。」

 「僕は、歯を二本失くした、それだけ。」

 「こっちに来て。貴方の顔を私が洗ってあげるわ。」彼女は、僕がもう一つのの異議を行う間もなく、―手当てを終えた。僕が嘗て知り合った女は、同じように速く手当てができない、彼女は僕の顔をゆっくりと注意深く洗った。

 「貴女は床の上で何をしていたの?」僕は尋ねた。

 「祈っていたの。」

 「誰のことを?」

 「生きとし生けるもの全てのことを。」

 「階下に降りた方が、もっと気が利いていたよ。」

 彼女の真剣さは、僕を驚かせた。僕は彼女をそのことから離れてからかいたくなった。

 「私はそうしたのよ。」彼女が言った。

 「僕は貴方に聞いていなかったよ。」

 「そこには誰もいなかった。ドアの下から伸びている貴方の腕を見るまで、私には貴方が見えなかった。私は貴方が死んだと思った。」

 「貴女はやって来て試してみたってよかった。」

 「私はそうした。私はドアを持ち上げられなかった。」

103

2022年3月30日水曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

 ドアの下から抜け出し、埃を払った。僕は地下室に向かって呼び掛けたが、そこには誰もいなかった。爆破された出入口を通り越し、僕は灰色の朝の光を見ることができた。崩壊したホールから外に伸びているそこはかと知れない喪失感に見舞われた。僕は木だと悟った。それは明かりを締め出して来た一本の木が、単に存在に終止符を打ったに過ぎず―そこには倒れた幹さえ跡形もなかった。かなり離れて、管理人が口笛を吹いていた。僕は二階に上がった。最初の飛行は、手すり子を失わせ、石膏に深く足部がめり込んでいた。それにしても家屋は、実際、あの当時の標準では、酷く痛手を受けてはいなかった―真面(まとも)な爆風を受けたのは、僕たちの隣人だった。僕の部屋のドアは開けっ放しで、僕にサラーが見えた通路伝いに襲来していた―彼女はベッドゥから離れ、床に蹲っていた。―恐怖から、と僕は思った。

彼女は馬鹿馬鹿しい程、有りのままの子供のように、幼く見えた。僕は言った。「あれは接近した一撃だった。」

 彼女はさっと振り向き、恐怖で僕を見つめた。僕は、ドゥレシング‐ガウンは破れ、石膏で全身粉だらけだったのに、気付いていなかった。僕の髪は、それで白くなり、僕の唇や頬は血に塗れていた。「オゥ神様。」彼女は言った。「貴方は生きているのね。」

 「貴女は、がっかりしたようだね。」

 彼女が床から起き上がると、彼女の衣服に手が届いた。僕は彼女に告げた。「貴女が去っても、今は、何もいいことはない。」「間もなく警報解除があるに違いない。」

 「私は帰る方が良かったのね、」

102

2022年3月29日火曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

  彼女は言った。「速く戻って。」

 僕が階段を駆け下りるに連れ、僕は上空に次の自動装置が飛来したのを耳にする、とその時、エンジンが停止したのか、唐突な待ちかねていたかのような静けさに変わった。僕たちは、尚も、学ぶ機会をものにしなかった。それは、グラスの列から出るため、水平になるために危険の瞬間だと。僕は一度もその爆発音を聞いたことがなく、僕は五秒か或いは五分後、様変わりした世界で、目を覚ました。僕は未だ両足が付いていて、僕は暗さに途方に暮れた。誰かが僕の頬の中に冷たい握り拳(こぶし)を押し付けているように思った。僕の口は血でしょっぱかった。僕の精神状態は、数秒間、僕が長い旅行をして来たかのようで、疲労の感覚を除くと、全てはっきりしていた。僕はサラーに関する記憶が全くなく、、僕は完全に、不安、嫉妬、危険、憎悪から解放されていた。僕の心は、白紙で、その上に誰かが幸福のメセイジを書くには持って来いの山場に丁度差し掛かっていた。僕はそのことを確かに思った。僕の記憶が蘇った時、書くことは続けようと僕は幸せになろうと。

 しかし記憶が戻った時、それはそんな風ではなかった。僕は先ずそれを悟った。僕はあおむけに倒れ、光を締め出しながら、僕の上で平衡を保っていたのは、玄関ドアだった。何か他の瓦礫がそれを受け止め、僕の身体の上で、数インチそれを吊っていた。その異変は、後で、その影によるかのように、肩から膝にかけて傷付いていると、自ら気付いたそれだった。僕の頬に密着していた握り拳は、そのドアの磁器の取手で、それは、僕の歯二本を強打して折った。その後、やっと、僕はサラーやヘンリや恋の終わりという怯えを思い出した。

101

2022年3月28日月曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

 その襲撃が始まった時、僕たちはベッドゥで只横たわっていただけだった。それには全く相違点はない。死は、そうした時期に、決して重大事ではなかった。―初めの内、僕でさえ、そのことをよく祈ったものだ。全滅を免れること、それは起床、着衣、走り去ろうとする緩いスピードゥのテイル‐ライトゥのように、共有地の反対側へと、彼女の懐中電灯が道を横切るのを見守ることを、永遠に妨げようとする。来世は、結局、死の瞬間の無限の延長として存在し得るかどうか、時に不可解に思いもしたが、それは、僕が選び、もし彼女が生きていれば、無条件の信頼、無条件の喜びの瞬間、考えることそれは不可能だから、口論することそれが不可能になったその瞬間が、僕が未だに選んでしまう瞬間だった。僕は彼女の忠告に不満を漏らし、パーキスさんが得た彼女の記述の断片を伴ったその言葉「玉葱」の僕たちの使い道を、苦々しく比べた。が、僕の知らない後継者宛の彼女のメセイジ読むことは、もし僕が、どれ程彼女が自暴自棄になりかねないか知らなければ、少しも傷付けようとしない。いや、Visは、愛の行為が終わるまで、僕たちに影響を及ばさなかった。

僕は、僕が持つ全てを使い果たして、彼女の胃の上の僕の頭共々仰向けになろうとしていた。そして彼女の味覚―水のように薄く捕えどころがない―僕の口の中で。自動装置の一つが共有地の上に墜落し、僕たちに南側をずっと下った所で、グラスが割れたのが聞こえた時

 「僕たちは地下室に行くべきだと思う。」僕は言った。

 「貴方の女主人は、そこにいるのね。私は他の人々に顔を合わせられない。」

 所有の後に責任という弱みが生じ、誰かが誰かを忘れてしまえば、何者に対しても責任のない、単なる恋する人だ。僕は言った。「彼女は離れた所にいるかも知れない。僕は、降りて見て来よう。」

 「出かけないで。どうか出かけないで。」

 「僕はちょっといなくなるだけ。」それが誰彼となく使い続けた文言で、人はあの当時、一瞬は、優に無限の長さに成り得るということを知っていた。僕はドゥレシング‐ガウンを着て、僕の懐中電灯を見つけた。僕はそれを殆ど必要としなかった。空は今灰色で、明りの点いていない部屋の中に、彼女の顔の輪郭が見えた。

100

2022年3月27日日曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

  それは1944六月、後にVisと呼ばれた物の最初の夜だった。僕たちは空襲に不慣れになっていた。1944二月、短期の呪文から逃れ、そこでは、電撃戦が1941の大規模な最終的急襲で消滅して以来、何も起こらなかった。サイレンが鳴り、最初の自動装置が上空に飛来し、2、3機が、僕たちの夜間防御を突き破った、と僕たちは推定した。或る者は、警報解除が、一時間後も尚、発されなかった時、不満感を露わにした。僕はサラーに話しているのを覚えている。「誰もが不注意になっていた。為すべきことは、余りにも矮小。」それにあの瞬間、僕のベッドゥで、暗い中、横になりながら、僕たちは僕たちの初めての自動装置にお目にかかった。それは共有地を横切って低く通過し、僕たちは 火だるまの一機やその異常な低く張りのあるマルハナを、制御を失くしたエンジン音だと勘違いした。二番手、それから三番手とやって来た。僕たちはその時、僕たちの防御に関する僕たちの意識を変えた。「それらは、鳩のように彼らを撃っている。」僕は言った。「続けるからには、彼らは必死に違いない。」それにしても夜が明け始めた後でさえ、これは何か出来立ての物だと僕たちが悟ったところで、何時間も何時間も、彼らは遣り続ける。

99

2022年3月26日土曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

 Ⅴ

彼女は僕に言った―それは、彼女があの密会から玄関広間の中に雨の雫を滴らせながら入って来る前、彼女から僕が聞いた殆ど最後の言葉だった。「貴方はそう恐れる必要はない。愛情は果てない。先ず、私たちは他の者をそれぞれ見ないでしょ。彼女はもう彼女の決意を固めてしまっていた。それなのに、電話がリンとも鳴らない翌日まで、そのことを知らなかった。しかし、誰かの口をこじ開ける沈黙が、突如として探り当てる。彼女は言った、私の愛しい人、私の愛しい人。人々は、神を慈しみ続けるわね。全身全霊、彼の人に間見えもせずに。

 「それは僕たちの愛の有り様とは、ずれている。」

 「私は、時には、何か他の有り様があるなんて鼻っから思い込まない。」彼女は既に何処かの誰かの影響下にあると認めるべきだと僕は考える―僕たちが最初に二人だけになった時、彼女はそんな風に話したことはなかった。僕たちの世界から、神を除くことに、僕たちは大いに喜んで賛成した。僕は彼女の行く手を照らそうとして注意深く懐中電灯を向けた。彼女はもう一度言った。「何もかもみな正しいに違いないわ。もし私たちが十分に愛し合っていれば。」

 「僕はこれ以上は、専心できない。」僕は言った。「貴女は全て手に入れた。」

 「貴方には分からない。」彼女は言った。「貴方には分からない。」

 窓からグラスが、僕たちの足元に砕け落ちた。古いヴィクトウリアのステインドゥ・グラスだけは、ドアの上にしっかりと固定されてそのままだった。グラスは白くなった、そこでそれは、子供たちが、雨で湿った畑の中か、道端に沿って割った氷のように粉状になっていた。彼女は又、僕に言った。「恐れないで。」彼女が、五時間後の今尚、蜂のように南からブンブン唸りながら着々と北上するその見慣れない新兵器を差し向けたのではない、と僕には分かった。

98

2022年3月25日金曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

 「僕は推察する―行き詰まって―僕たちは恋の終点に辿り着いてしまった。そこには、僕たちが一緒に出来ることは何か他にある筈がなかった。彼女は、買い物や料理をしたり、貴方とぐっすり眠ったりできるでしょうが、僕と一緒に彼女は愛を育むことしかできなかった。」

 「彼女は貴方をとても好ましく思っていた。」

僕を楽にすること、それが彼の仕事だったかのように、僕の目が、涙と共に傷付いたそれであるかのように、彼は言った。

 「或る者は好みでは満足しない。」

 「そうだね。」

 「僕は続く上に続く、決して擦り減らない愛情が欲しかった・・・」僕はこんなことをサラー以外、誰にも話したことはなかったが、ヘンリの返事は、サラーのものとは違った。彼は言った。「そういうのは、人間の本質の範疇にない。人は満足しなければならない・・・」何れにせよ、それはサラーが言ったことではなかった。そうしてヴィクトウリア・ガードゥンで、ヘンリの横に座りながら、一日が果てて往くのを見守りながら、僕は全「出来事」の終わりを、記憶に刻み付けた。

97

2022年3月24日木曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

 「どうして彼女は貴方を置いて去らなかったか?」

 「そりゃあ、僕まで退屈で馬鹿になったからでしょう。だけど僕は生まれつきそういう風じゃない、ヘンリ。貴方が僕を創るんだ。彼女は貴方を捨てない。その内僕は嫌な男になって行った、不平と嫉妬で彼女をうんざりさせては。」

 彼は言った。「人々は貴方の著作に素晴らしい見解を持つ。」

 「そして彼らは、貴方が一流の委員長だと言う。僕たちの仕業は、どんな生き地獄と関係しているのか?」

 彼は、「僕はそれが齎すものの他には、何も知らない。」南の川岸の上の灰色の積雲を見上げながら、悲し気に言った。。カモメは艀(はしけ)を越えて低く飛び、発砲塔が、冬の日差しの中、崩壊した倉庫の間に黒く佇んでいる。雀に餌をやっていた男は去り、茶色い‐紙包みを持った女、露天商は、駅の外の暗闇で動物のように吠えた。それはまるで地上全体で鎧戸が上がっているかのようだった。間もなく僕たちは、僕たち全員、自らの装置に見捨てられてしまう。「僕は不可解に思う、何故、貴方はあの時期、僕たちに姿を見せようとしなかったの?。」とヘンリは言った。

96

2022年3月23日水曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

 彼のものである妻の性質を彼に教えていいものか?

 毒は、再び僕の中で効いて来た。僕は言った。「貴方は十分安定した収入源を持つ。貴方には、彼女が形作った習性がある。貴方は担保に過ぎない。」彼は真剣に、注意深く耳を傾けた。僕は、委員会を前に、宣誓の上で、証拠を提供する目撃者であるかのように。僕は不毛にも続けた。「貴方が他の男にそうであった以上のトゥラヴルなど、僕たちには何でもなかった。」

 「他の男もいたの?」

 「時々僕は、貴方はそのことを全て知りながら、関心がないのかと思った。時々僕は、貴方に対してそのことを持ち出そうかと切に思いはした―それでは遅過ぎるが、僕たちが今しているように。僕は貴方に、貴方のことを僕がどう考えるか、打ち明けたかった。」

 「貴方が何を考えたって?」

 「それは、貴方は彼女のヒモだった。貴方は僕を食いものにしたし、貴方は誰も彼も食いものにして、今、貴方は最も遅れたものを食いものにしている。永遠のヒモ。何故貴方は腹を立てない、ヘンリ?」

 「僕は全く分からない。」

 「貴方は気付かないままに食いものにした。貴方は彼女とどのように愛を育めばよいか、知ろうともせずに食いものにする。だから彼女は、何処か他に目をやるしかなかった。貴方は、好機を恵んでやっては、食いものにする・・・貴方は、退屈な人、愚か者になっては食いものにした。だから今この時、退屈でも愚かでもない誰かが、シーダー・ロウドゥで彼女とあちこち遊び回っている。」

95

2022年3月22日火曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

 彼は垂れたその頭で、彼の足元を見つめながら、そこに座っていた。それで僕は、僕自身の所為で、随分長い間、酷くお高く留まって、僕の敵に対して申し訳ないと思うのは、僕にしては珍しいような気がした。僕はその帽子を静かに彼の傍の座席に降ろし、歩いて行こうとしたが、彼が上を向くと、彼は泣いていたように僕には見えた。彼は非常に遠い道を旅するしかなかった。涙は、イギリス委員会とは別世界のものだ。

 「僕は済まないと思う、ヘンリ。」僕は言った。如何に安易に悔恨の動作によって、僕たちの罪悪感から逃れられると信じることか。

 「座って。」ヘンリは、彼の涙の権威で勧め、僕は彼に従った。彼は言った。「僕は考えていた。」「貴方は二人分の愛人だったの、ベンドゥリクス?」

 「どうして貴方はそう思うの・・・?」

 「それが、唯一の解説だから。」

 「僕は貴方が何を言っているのか分からない。」

 「それは、唯一の容赦でもある、ベンドゥリクス。貴方がしたことは、―不条理だと、見てはいけない?」彼は話しながら、彼の帽子を回転して、メイカー名を調べた。

 「僕が恐ろしく馬鹿だ、と貴方は思っている、と僕は推測する。何故、彼女は僕を置いて去らなかった?」

94

2022年3月21日月曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

 Ⅳ

僕は彼に追い着くか、或いは少なくともフワイトゥホールからの長い距離を先回りして、彼を視界に捕らえようとした。というのも僕は彼の帽子を、僕が持って行ってやりたかったから。ところが彼は何処にも見当たらなかった。僕は何処へ行こうか決めかねて折り返した。近頃、それは最悪の時刻だ。そこにあるのは、有り余るほどのそれ。僕はチャーリング・クロス地下に近い小さな本屋の中を見た。この時間にサラーは、角の周辺で待ち伏せるパ―キスさんと一緒に、シーダー・ロウドゥの粉を塗したベルに、彼女の手を置いているのではないだろうか。仮に僕が時間を巻き戻せたところで、僕はそうしようとしたと思う。僕は、ヘンリを徒歩で側に行かせようとした。ところが僕は、僕に何か出来ることがあるとすれば、とっくの昔に、出来事の道筋の変更をしているのにと疑心暗鬼になるばかりだ。ヘンリと僕は、今や、僕ら流に、連合軍で、無限の潮流に逆らった連合軍だ、僕たちは。

 僕は道路を横切り、露天商を過ぎ、ヴィクトウリア・ガードゥンの中に入った。さほど多くはない人々が、曇った吹きっさらしの中、ベンチに座っていた。僕は、忽(たちま)ちの内に、ヘンリを探し当てたものの、彼と認めるには少々僕には時間がかかった。戸外で、帽子もなく、彼は、匿名の人、放浪者ら、貧しい郊外から上って来た誰も知らない人々―雀に餌をやる老人、Swan & Edger’sと記された茶色い―紙包みを持った婦人と合流したように見えた。

93

2022年3月20日日曜日

The End of the Affair/Graham greene 成田悦子訳

 「どんなリポートゥを?」その言葉が発せられた時、ヘンリの仕事は、彼の心に初めピンと来なかった。

 「イギリス委員会。」

 とうとう彼が行ってしまうと、ヘンリが口を開いた。「さあどうかそのリポートゥを僕にくれ、そして僕を通してよ。」

 幹事が僕たちといる間、彼は物事を考え過ぎていたんじゃないだろうか。だから僕は彼に最終リポートゥを手渡した。彼はそれを火の中に直接載せ、火掻き棒でそれをしっかり叩き込んだ。その身振りは威厳を放っていたと思わざるを得ない。「貴方はどういうつもりなんだ。」

 「別に。」

 「貴方は事実から放免されてはいない。」

 「事実を道連れに地獄へ?」ヘンリは言い放った。僕は以前彼が暴言を吐くのを耳にしたことはなかった。

 「僕は何時でも貴方に写しを持たせられるんだよ。」

 「僕を直ぐにでも行かせてくれないか?」ヘンリは言った。悪魔がその仕事を終えようとした。僕は毒液から液を抜き取ったと勘付いた。僕は炉格子から足を外し、ヘンリを通した。彼はクラブから直ぐに歩いて出て行った。彼の帽子を忘れたままで、その黒い傲慢な帽子、それが、僕は共有地をずぶ濡れで横切って来るのを見たことがあった―それは老人のようだった、何週間も前のことでもないのに。

92

2022年3月19日土曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

 「僕が料金は全部持つよ。」

 「それじゃあ悪魔のようなずうずうしさになる。」彼は立ち上がったが、僕は彼が暴力行為なしで傍を通り過ぎて受取れないような所に彼を閉じ込めたものの、暴力はヘンリの柄じゃなかった。

 「確かに貴方は彼女のことをはっきりさせた方がいい。」

 「はっきりさせたいことなどない。僕は行かなきゃ、ねえ。」

 「貴方は報告書を読んだ方がいい。」

 「僕はそのつもりはない。」 

 「それなら、秘密の訪問についてその一端を、僕が貴方に読み聞かせるしかない、と僕は思います。彼女のラヴ・レタ-を、僕は私立探偵に書類整理ということなので返した。我が親愛なるヘンリ、貴方は適切に庭へ導かれた。」

 彼が僕を殴ろうとしていた、と実際僕は思った。もし彼がしたら、僕は喜んで殴り返そうと、サラーが、自らの考えで、随分長い間、実に馬鹿げたことに、忠実であり続けたこの愚か者を殴り返そうとしたが、その瞬間、クラブの幹事が入って来た。彼は、長いグレイの顎髭と、スープのシミが付いたべストゥを身に着けた男で、彼は、ヴィクトリア朝詩人のように見えた。が、実際に、彼は嘗て知っていた犬の少し悲しい回想を書いた。(For Ever Fidoは、1912、大きな成果を上げた。)「ああ、ベンドゥリクス。」彼は言った。「長い間、僕はここで貴方に会ったことがない。」僕がヘンリに彼を紹介すると、理容師の素早さで彼は言った。「僕は毎日、あのリポートゥを追いかけていました。」

91

2022年3月18日金曜日

The End of the Affair/Graham Greeme 成田悦子訳

壁伝いの角は、その場所に何と相応しいことかと思った。旧-式の炉格子の上に僕の足を載せながら、ヘンリを片隅にしっかりと閉じ込めた。

僕は僕のカフィを掻き雑ぜ、言った。「サラーはどう?」

 「かなり元気。」ヘンリはごまかして言った。彼は、彼のワインを、不安と、疑念を持って味わった。彼は忘れていなかった、と僕は思う、ヴィエナ・ステイクを。

 「未だ貴方は心配してるの?」僕は彼に尋ねた。

 彼は不幸せそうにその凝視を移した。「心配?」

 「貴方は心配している。貴方がそう僕に話した。」

 「僕は覚えていない。彼女はかなり上手くやってる。」彼は弱々し気に説明した。僕が彼女の健康に言及したのに。

 「貴方は前にあの私立探偵に相談したの?」

 「僕は貴方がそのことを忘れてくれたらと願った、僕は良くなかった。―分かってるでしょ、そこにはこの英国委員会の企画がある。僕は働き過ぎだ。」

 「僕は貴方に会うように進めたのを覚えている?」

 「僕たちは二人共少し働き過ぎに違いない。」

 彼は頭上の古い角目掛けて、急に立ち上がった。寄贈者の名前を読もうとして彼の目を見開きながら。彼は愚かにも言った。「貴方に、たくさん頭があるようだ。」僕は彼を容赦するつもりはなかった。僕は言った。「僕は2、3日後に彼に会いに行ったんだ。」

 彼は彼のグラスを置いて言った。「ベンドゥリクス、貴方は全く抜け目がない・・・」

90

2022年3月17日木曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

日刊新聞の記者らは、制作する紙が全くなく、学校警備官は、ブラムリやストゥリーサムへ帰宅していた、牧師たちにその日に何があったのか、僕は全く知らない―多分彼らは、彼らの説教を準備するために屋内にいる。作家について言えば(彼らのためにクラブが設立された)、彼らの殆ど全員が壁に掛けてある―コナン・ドイル、チャールズ・ガーヴィス、スタンリ・ウエイマン、ナットゥ・グールドゥ、特別に任命され、その上著名で、よく知られた顔を持っていた。貴方が片手の指で数えられる生存者。僕が何時もクラブで寛(くつろ)いでいたのは、そこには、作家仲間に会う可能性がさほどないから。僕はヘンリがヴィエンナ・ステイクを選んだのを覚えている―それが彼の潔白の現れだった。

 僕は 彼が何を注文し、ウィーナー・シュニツ゚ェルのような何かを期待しても、彼にはどのような裏もなかったと心底信じる。彼は、ホウム・グラウンドゥから離れ、彼は、寛ぐには余りにも気分が悪かったので、皿の上で論評し、何とかしてやっと、ピンクのべとべとした混合物を詰め込んで、きれいに平らげた。僕はフラッシュライトゥの前の、その尊大な様子を覚えていて、彼がカビネットゥ・プディングを選んだ時、彼に警告しようとするどのような試みもしなかった。忌まわしい食事の間(その日そのクラブは、許容範囲を超えていた。)、僕たちは何に関しても、苦心して話さなかった。ヘンリは、報道陣に日々報じられた英国委員会の会報向けの内閣機密の顔を添えようと全力を尽くした。僕たちがカフィを求めてラウンジの中に入ると、擦り切れた黒いバス織りのソウファの中、火の側に全くぽつんとしている自分達に気付いた。

90

2022年3月16日水曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

 彼は、英国委員会の委員長に任命され、今、彼は「The Last Siren]と名付けられた英国フィルムの祝祭の夕べを担当していた。彼の腕にしがみつくサラーと一緒に、フラッシュを浴び、青白い上に目を丸くして。彼女はフラッシュを避けるように、彼女の頭を低くした。それでも、罠にかけ、又指を阻止した結び目の多い髪を寄せ集める、そのことを、僕は認めようとした。突然、僕は僕の手を差し出し、彼女に。彼女の頭の毛と彼女の隠れた毛に、触れたくなり、僕は僕の側で横になっている彼女が欲しくなり、僕は枕の上の僕の頭を彼女の方へ向けられるようになればと願い、僕はその殆ど感知できない匂いや彼女の肌の味わいを求めたところで、そこにいたのは、新聞記者のカメラに、自己満足と百貨店的頭の自信共々、面と向かっているヘンリだった。

 僕は、1898にサー・ウォルタ・ベサントゥによって贈られた雄鹿の頭の下に座り込み、ヘンリ宛に書いた。彼と話し合いたい或る重要な問題を抱えているので、僕と昼食を摂れるか、と書いたー彼は来週の内、どの日を選んでも構わなかった。かなりすばしっこく彼はベルを鳴らした、それがヘンリの典型で、同時に、僕は彼と昼食を摂るべきだと提案した―これほど難しい客である男を、僕は今まで知らなかった。僕は何が口実だったのか、正確に思い出せないが、それは僕を怒らせた。彼の所有するクラブは。或る特別美味しいワインを持っていると彼は言った、と僕は思うが、本当の理由は、義務という感覚が彼をうんざりさせたからだった―負担のない食事の僅かな義務でさえ。どんなに僅かでも、彼の義務がありそうだと、彼は少なからず推測した。彼は土曜日を選び、その日、僕のクラブは殆ど空いていた。

89

2022年3月15日火曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

彼がしなければならないことは、次にサラーがこの方向へ出かける時には、彼女の先周りをして、粉を塗した三軒のベルの埃を払うことだった。「そこには、勿論、証拠物件Aから離れ、問題の当事者による姦通の証拠の欠片もありません。仮にこれらの報告書の強みに基づいて、このような証拠が、法的処置を視野に入れるに伴い、求められるとすると、屋内の当事者を尾行すること、それは、適当な間隔を開けた後、必要かも知れません。当事者を確認できる二番目の目撃者が求められます。行為の最中の当事者を押さえること、それは全く必要ありません。衣服の確かな乱れや動揺は、判事によって十分維持されるでしょう。」

 憎悪は肉体的愛情に実に近い。それはそれ自体の危機と同時に、それ自体の平穏の終結を兼ね備えている。可哀そうなサラー、と僕が思ってしまったのも、パーキスさんの報告書を読みながら、この瞬間が僕の憎悪のオーガズムであり、今、僕は満足しているから。僕は、彼女がいたからこそ、がんじがらめにしてしまい、彼女に対して済まないとやっと思った。彼女は恋愛の他に何事にも傾倒したことがなかったのに、あらゆる動向を見張っているパ―キスと彼の若い者が、今はいる。彼女のメイドゥを使った企み、呼び鈴への粉塗布、多分、彼女が最近満喫したのは唯一平和だけだったそのことへの凄まじい噴出計画。僕はその報告書を引き千切り、スパイ共を呼んで彼女から引き離そう、と心が半ば動いた。多分、僕はそうしようとした。もし、僕が属したみすぼらしいクラブで、「タトゥラ」を公開せず、ヘンリの写真を見なかったら。ヘンリは今は成功し、去年の誕生日には、彼は省の彼の業務に対して、C,B,E.を叙勲した。

88

2022年3月14日月曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

 Ⅲ

それで僕は、悪魔の計略に備え、心からの熱中をパーキスの次のリポートゥで発見出来たらいいと思った。ついに彼は現実に恋愛を嗅ぎつけてしまって、今や彼は、そっと近付いてリトゥリーヴァのように、直ぐ後に続く彼の若い者、それを仕留めた。彼はサラーが彼女の時間の大半を何処で過ごしていたか発見した。そのこと以上に、彼は訪問は秘密だとはっきりと知っていた。僕は、パーキスさんが抜け目のない探偵だ、と自ら立証して来たことを、認めざるを得なかった。「問題の当事者」が、16番の方へシーダー・ロウドゥを歩いて下った時、丁度その時に、家の外にマイルズのメイドゥを連れて出るのに、彼の若い者の助けを彼が取り決めた。サラーは立ち止まり、その日が非番のメイドゥに話し掛けると、メイドゥは、彼女を若いパーキスに紹介した。それからサラーは、歩き続け、次の角を曲がった。そこでパ―キス自身が待っていた。彼は狭い道を歩く彼女を見て、そこで引き返す。彼女は、メイドゥとパ―キス青年が視野から外れたのを確認すると、彼女は16番のベルを鳴らした。パーキスさんはそこで16番の居住者の調査に取り掛かった。これが、さほど簡単ではなかった。その家屋は、屋根の中で分けてあり、彼にはサラーが三軒のベルの内、どれを鳴らしたかを知っても、大した意味はなかった。彼は数日内の最終報告を約束した。

87

2022年3月13日日曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

 主観的神の法外な起こりそうにないことを鵜呑みにできる人々は、何故、主観的な悪魔を受け付けないかを、僕は全く理解しなかった。僕はとても親密だったので、僕の想像力の中で、その悪魔は働く術を心得ていた。サラーは嘗てどのような声明も作ったことはなく、それは、彼の狡猾な疑念に対する証明になった。それでも、彼は何時も彼女があれやこれやを言葉にするまで、待とうとした。それが起こるずっと前に、彼は僕たちの口論を、駆り立てようとした。彼は愛の敵程には、サラーの敵ではなく、つまり、どんな悪魔もいると考えられているんじゃないのでは?もしそこに愛する神が存在すると、、悪魔は、その愛の最も弱く、最も不完全なまがい物でさえ、破壊に至らせる。彼は愛の性(さが)が募ったら嫌になってしまうんじゃないか、それに僕たち皆、反逆者になり、愛を根絶しようとする彼を助ける罠にかけてしまうんじゃないか?そこにもし、僕たちを使い、こんな僕たちのような人物から遠い、彼の死者を作る神がいれば、悪魔も又、彼の大望を抱く。彼は僕自身のようなこんな人物さえ、可哀そうなパーキスでさえ、彼の死者になることへと訓練しようと、夢見かねない。喩え何処でそれを見い出しても、愛を滅ぼそうと、借りた熱狂で準備する。

86

2022年3月12日土曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

 それにしても確かに、このパブに僕を連れて入ったそれは愛情ではなかった。僕は僕自身に、共有地からのあらゆる道、それが嫌だったと打ち明けた。僕はずうっと自分自身に説くに連れ、彼女のこの話を書きながら、永遠に僕の秩序から彼女を締め出そうとするのは、もし彼女が死んだら、僕は彼女を忘れられる、と何時も説得して来たから。

 僕はパブの外に出た。済ませたに見合う彼女のフイスキと一緒に彼女を、彼女のプライドゥ用軟膏としてパウンドゥ紙幣を残して。そしてニュー・バーリントン・ストゥリートゥを電話ボクスまで歩いて上った。僕は僕用の懐中電灯も持たず、僕が僕の番号のダイアルを回すことを完了してしまう前に、僕は競争相手の後に又競争相手に行き当らざるを得なかった。その時僕は、電話が鳴っている音を聞き、僕は僕の机の上に置いてある電話を思い描いてしまった。例えば彼女が椅子に座っているか、ベッドゥで横になっているかで、サラーがそれに辿り着くのに何歩歩かなければならないか、僕は正確に知っていた。それでも僕は、それが30秒間、留守の部屋で鳴り続けるままにした。それから僕が彼女の家に電話すると、メイドゥは未だ中にはいないと僕に話した。灯火-管制中に共有地をあちこち彼女は歩いているのではないかと思った―その頃、より安全な場所は其処にはなかった。そして僕の時計を見ながら、僕は思った、もし僕が愚か者でなければ、僕たちは一緒にあと三時間は過ごしていた。僕は一人で帰宅し、本を読むことにした。しかしずうっと、僕は鳴らない電話に耳を澄ましていた。僕のプライドゥが、彼女にもう一度電話しようとする僕を引き留めた。とうとう僕はベッドウに向かい、睡眠薬‐一回分の服用量の2倍を飲んだ。挙句の果て、朝、僕が知った冒頭は、何事もなかったかのように僕に話す、電話でのサラーの声だった。僕が受話器を置くまで、そこには、再び完全な平和のようなものがあった。ところが、直ぐに僕の頭の中のその悪魔は、彼女にはあの三時間の浪費は、全く何の意味もなかったという考えを促した。

85

2022年3月11日金曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

彼女はサラーより若く、彼女は19を超えている筈もなく、その上美しく、寧ろ損なわれていないと誰かが言っても構わなかったが、それは只、駄目になるようなものが極端に少なかったからだ。僕は犬か猫の類を求める以上に、彼女を全く欲しくはないと気付いた。彼女は僕に、ほんの二、三軒下ると最上階に素敵なフラットゥを彼女が持っていると話した。彼女は支払わなければならない何を借りて、彼女の年齢は何歳で、何処で生まれ、カフェで一年働いた、と僕に話したが、僕は紳士だと直ぐに見抜いてしまった。彼女は、自分にそれをくれた紳士の名前を付けたジョウンズと呼ぶカネアリを飼っていると言った。彼女は、ロンドンでの襤褸菊(のぼろぎく)を得ることの難しさについて話し始めた。僕は思った、もしサラーが今も僕の部屋にいれば、僕は教会の鐘を鳴らせる。例えば僕が庭を持っていれば、僕は彼女のカネアリを時々思い出すかどうか、その少女がぼくに尋ねているのを聞いた。彼女は言った。「貴方は尋ねている私のことを気にしないでしょ?」

 僕のフイスキの向こうの彼女を見ながら、僕は思った、何て奇妙な、彼女に全く欲望を感じない。僕が大人になって入り混じった全ての年月の果てに、全く突然といった風にそうなった。サラーに向かうこの激情は、単なる肉欲を永遠に封じた。二度と再び愛情のない女を弄ぶことは出来はしない。

84

2022年3月10日木曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

 その夕べ、僕がピカディリに着いた時、僕は尚も、僕の憎悪と不信でがんじがらめだった。世界の何ものよりずっと、僕はサラーを傷付けたかった。僕は、僕と共に女を再び迎え入れ、僕がサラーを抱くその同じベッドゥの上に、彼女と横になりたかった。それで、彼女を傷付ける唯一の方法は、自分自身を傷付けることだ、と僕には分かっていたかのように、振舞った。通りでは、この時までに、それは暗く静かになっていた。が、見上げると、月のない空の上方に、小さな塊とサーチライトゥの光線を動かした。戸口や使われていない避難所の入り口に、女たちが立つそこでは、貴方は顔を見られない。彼女たちは、ツチ蛍のように彼女たちの懐中電灯で合図しなければならなかった。サックビル・ストゥリートゥを上る全ての道は、その小さな明かりが、点いたり消えたりしていた。サラーは今何をしているのかと気を回そうとする自分自身に気付いた。彼女は帰宅したか、それとも彼女は僕が戻って来ると思って、待っていたか?

 一人の女が彼女の明かりををぱっと点けて言った。「私と一緒に家に来たい、ねえ?」僕は僕の頭を振り、歩き続けた。通りを上ってもっと先で、その女は、男に話しかけていた。彼女がその顔を彼のために照らした時、僕は、何処かしら若く、暗く、幸福で、未だ損われていないものをちらっと見た。動物、それは未だ自らの監禁状態に気付いていなかった。僕は通り掛かり、そこで彼女たちの方へと道を引き返した。僕が近付くと男は彼女を一人残し、そこで僕は話し掛けた。「一杯どう?」僕は言った。

 「後で私と家に来るってことでは?」

 「いいよ。」

 「話が速くて嬉しいわ。」

 僕たちは通りの頂上のパブに入り、僕は2杯のフイスキを注文した。が、彼女が口にしても、サラーの所為で彼女の顔を見られなかった。

83

2022年3月9日水曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

  僕は書き始めた時、これは憎悪の物語だと言ったが、僕は納得していない。多分僕の憎悪は、僕の愛情同様、実に欠陥がある。僕はまさに今、書くことで目覚め、机に寄り、鏡の中に僕そのものの風景を捕えて、やっと僕は思った、憎悪は本当にそんな顔つきをしているのか?僕たちはその誰もが、子供の頃に見た筈のその顔を思い起こした。ショップ・ウインドウから、僕たちの方を振り返ろうとすると、顔立ちがその息でぼやけた。僕たちが、中のきらきらした手に入らない物に、あんなに思い焦がれて見入ったので。

 それは、1940・5月のきっとあの時だった、その時、この口論は勃発した。戦争は、数多くの素晴らしい方法で僕たちを助け、それは、如何に僕が戦争を、かなり質の悪い、当てにならない殆ど僕の情事の共犯者だと見做したかである。(慎重に、僕はその言葉「情事」の苛性ソウダを僕の舌の上に始まりと終わりのその暗示と共に置こう。)この時までに、僕はドイツ人が低地三国を侵略して来たと、考えている、屍のような春は、開花の匂いで甘い香りがしたが、僕には何の関係もなく、それどころか二つの実際の出来事―ヘンリは国防省へ配置され、遅くまで仕事をしたし、僕の女主人は、空襲を恐れて地下室へ移り、もはや階上の床の上には、望まない訪問者のために手すりの向こうで見張りながら潜む者さえいなかった。僕自身の暮らしは、この不自由な足の所為で、全く変わらなかった(子供の頃の事故の結果、僕はもう一方のものより短い片足を持っていた)。只、空襲が始まった時は、学校長になる必要性を感じた。まるで僕が戦争に署名をしたかのように振舞おうとしたのは、その時期だった。

82

2022年3月8日火曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

彼女は一年近くの間、僕に誠実だった。彼女は僕に大きな喜びを齎した。彼女は僕のむら気に付いて来て、僕は束の間の喜びの外(ほか)、お返しに何を与えて来たか?この目を見開いたまま、この情事にのめり込んだ、このことは何時か終わるしかないと知りながら、それでも尚、不安感、望みのない未来の論理的確信は、鬱病のように伝わる。僕は彼女を苛め、そして又苛めようとする。まるで僕が、ドアの現在に未来を、望まれない、早過ぎる客を伴いたかったかのように。僕の愛情と不安は、分別のように振舞った。もし僕が罪を信じたら、僕たちの行動は、殆ど違っていなかっただろう。

 「貴女はヘンリには妬いてしまうんだ。」僕は言った。

 「いいえ、そうなる筈ないわ、そんなの馬鹿げてる。」

 「もし貴女の結婚が、脅かされているように見えても・・・」

 「そうなってしまうなんてないの。」彼女は寂しそうに言った。そして僕は侮辱的彼女の言葉に応じて階段を降り、通りへと一直線に歩いて出た。これが終わりか、僕自身に演技を仕掛けたのかと問いかけた。そこにはもう二度と戻る必要はない。喩え僕の秩序から彼女を締め出せても、前進し続けるだけの、穏やかで仲の良い結婚に行き着かないじゃないか?それから多分、僕が嫉妬を感じさえしなくなったのは、僕が手放しで愛そうとしなかったから。僕は只安全域に留まろうとしたに過ぎず、この自己憐憫と嫌悪は、手に手を取って保護者のいない馬鹿のように暗くなっていく共有地を歩いて横切った。

81

2022年3月7日月曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

パーキスさんのその日々以前でさえ、僕は彼女を調べようとしていた。僕は些細な嘘、僕についての彼女の懸念を除くと、何一つ意味のない言い逃れに、彼女を罠に賭けようとした。あらゆる嘘に対して、僕は背信へと誇張しようとし、又最も開かれた声明でさえ、僕は隠された意味を読み取ろうとする。何故なら、他の男に触れるも同然の彼女の考えに、僕は耐えられず、僕はそれをずっと惧れ、そうして僕は,最も何気ない手の動きに、愛情表現を予測した。

 「貴方は私に惨めであるより、少しでも幸せであって欲しくはないの?」彼女は耐えられない論理で尋ねた。

 「僕は寧ろ死ぬか、貴女が死ぬのを見る方がいい。」僕は言った、「他の男と一緒なら。僕は常軌を逸してはいない。それが普通の人間の愛情だ。誰にでも聞くといい。誰も彼も皆、同じことを言うに決まっている―もし彼らが全てを愛したら。」僕は彼女に二の足を踏んだ。「恋をする誰もが妬いている。」

 僕たちは僕の部屋にいた。日中の安全な時間に、そこに来ていた。晩い春の午後、愛を育むために。一度は僕たちは暇な時間を持ち合い、そうしておきながら、僕はその全てを口論で浪費した。そこになかったのは、育みたくなる愛情だった。彼女はベッドゥに座って、言った。「ごめんなさい。私、貴方を怒らせるつもりじゃなかった。貴方が正しい方がいいわ。」それでも僕は彼女を一人にしては置かない。僕が彼女を嫌になったのは、彼女は僕を愛さなかったと考えるようになったからだ。僕の秩序から外れて欲しかった。どんな不満を、彼女が僕を愛しているのか、愛さないのか、僕には今も分からない、僕は彼女に対して、抱くようになったのか?

80

2022年3月6日日曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

僕の嫉妬の程度で愛情を測り、その基準では、勿論、彼女は、僕を全く愛せなかった。

 その口論は、何時も同じ形態を採り、僕は或る特別な場合を描写するだけ。何故ならその場合に、口論は行為―僕は書き始めると、結局、多分彼女は正しく、僕が悪いという感慨に向かうというこの不確かさがなければ、ついに、何処にも導かない馬鹿げた行為で終わったのだから。

 僕は怒って言ったのを覚えている、「これはまさに、貴方の何時もの冷淡さからの遺物だ。冷淡な女は、決して妬かない、貴女は単に並みの人間の感情に未だ追いついていなかっただけだ。」

 彼女は、どんなクレイムもつけなかったということが、僕を怒らせた。  「貴方は正しいかも知れない。私は貴方に幸せになってほしいと言っているだけ。私は貴方が不幸せであるのは嫌。私は貴方を幸せにするなら、貴方がどんなことをしても気にしない。」

 「貴女は只許しが欲しい。もし私が他の誰かと寝ると、貴女は同じことが出来ると思う―何時でも。」 

 「それは、ここにもあっちにもどっちにもないの。私は貴方に幸せになってほしい、それが全て。」

 「貴女は僕のために僕のベッドゥを作るつもりなの?」

 「多分。」

 不安は恋人たちが感じる最悪の感覚だ、時に、最も平凡な結婚はより良く見える。不安は意義を捩(よじ)り、信頼に毒を盛る。厳重に包囲された都市においては、あらゆる見張りが、潜在的な反逆者だ。

79

2022年3月5日土曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

 彼は僕を絵画の一部としても、認めようとさえしない、と僕は思うし、僕自身への注意を引こうとする凄まじい願望を感じる。彼の耳に大声で叫ぶために「お前は僕を無視できない、ここに僕はいる。喩え後々何が起ころうと、サラーはその時僕に思いを寄せているんだ。」

 サラーと僕は、嫉妬に関する長い口論をしょっちゅうやったものだ。僕は過去のことでさえ妬いた、それが上り坂に差し掛かると、そのことについて彼女は僕に率直に言った。全く意味をなさない情事(ヘンリがひどく痛ましく、引き起こし損ねたあの決定的な引き付けを何とかして見つけようとする無意識の願望を除いて)彼女は彼女の愛人に対して、彼女がヘンリに対するのと同じくらい誠実だったが、安心感を僕に与えようとして何かが(疑いなく、彼女は僕に対しても誠実であろうとするから)僕を怒らせた。そこにあったのは、彼女が僕の怒りを一笑にふそうとした時期だった、まるで、それが本気だったと簡単に信じるのを拒絶したかのように、まるで彼女自身の美しさを彼女が信じるのを拒むかのように、そして僕はと言えば、まるで怒りの最中にあろうとでもするかのようだった。何故なら、彼女は、僕の過去も僕の可能性のある未来をも、妬くのを拒絶したから。僕は、愛情が僕のものより少しでも別の形態を採り得たという事を信じるのを拒絶した。

78

2022年3月4日金曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

  僕は手紙の断片に「論評はない。」と書き、それを封筒に戻して、パーキスさんの宛先をそれに書いたが、夜中に目が覚めた時、自分自身に対して、全てのことをすっかり読んで聞かせることが出来た。そして「捨てなさい」という言葉は、様々な身体的画像を結んだ。僕は眠られず、そこで横になった。憎悪と欲望で、僕を次から次へとちくちくと刺す記憶、寄木細工の床に扇形に広がる彼女の髪、そして軋むその段、僕たちが、道路から外れた溝で横になった田舎の或る日、僕は固い地面の上の頭髪の間に、霜の輝きを見ることが出来た。そして重大局面の瞬間に、一台のトゥラクタが押しながら側に近付いたが、その男は決して頭を向けなかった。何故憎悪は欲望の命を奪えないのか?僕は眠るために何かを供給しようとした。喩え僕が代用品の可能性を信じていたにしても、僕は小学生のように振舞おうとした。しかしそこにあったのが、僕が代用品を探そうとした時期だとしても、それは機能しなくなっていた。

 僕は嫉妬深い男だった―こうした言葉を書くのは愚かに思える、僕は想像する、嫉妬の長い記録、ヘンリの嫉妬、サラーの嫉妬、パーキスさんが極めて不器用に追跡していたその他の嫉妬を。この全ては過去のものであるという今、僕は、記憶が特に生々しくなる時だけ、ヘンリについての僕の嫉妬を痛感する(何故なら僕は、もし僕たちが、彼女の誠実と僕の欲望を引き連れて、結婚していたら、僕たちは終生幸せでいられただろうと僕は誓うから)、しかしそこには尚、僕のライヴァルの嫉妬が残っている―耐え難い一人よがり、自信、そして成功を表現するために、痛々し気で不適格なメロドラマ的言葉を彼は何時も楽しむ。

77

2022年3月3日木曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

 「私は貴方に書く必要も、又話す必要性も持ち合わせない。私が話そうとする前に、何もかも知っている。それでも誰かが愛し、誰かが何時も使って来た変わることのない、使い古した手口を使う必要性を感じます。私は只愛し始めていると自覚しています。それなのに、もう私は全てを捨ててしまいたい。貴方ではない誰も彼も、怯えと習癖だけが、私を引き留めます。愛しい人・・・」そこにはもう何もない。それは私を厚かましく睨み上げ、そこで僕は、彼女が嘗て僕に宛てた覚書全てのどの目鼻立ちも、何故忘れてしまったのかと、思わざるを得ない。僕はそれを取って置こうと思ったのか、もしそれが彼女の愛情に対して、それ程完全にこれまで明かして来たのなら、僕のそれを取って置くことへの不安のために、彼女は何時もあの頃、彼女はそれを「針金の間に」置いたように、僕に手紙を書くのに神経を使った。しかしこの最後の恋は、針金の籠を飛び出した。それは視野の外のそれの間に置かれるのを拒んだ。そこには僕が覚えていた一つの婉曲語句「玉葱」があった。愛は、「玉葱」に、行為そのものでさえ「玉葱」になった。「もう私は全てを捨ててしまいたい。貴方ではない誰も彼も。」それに玉葱を僕は思った、嫌悪を伴った、玉葱を―それが僕の持ち時間で辿る径だった。

76

2022年3月2日水曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

僕は、彼のあの若い者の面前で、パーキスさんの漫然とした責任逃れの非能率的報告書を、彼の口の中に押し込んで潰したくなるきっかけが、そこにあった。(どんな目的のために?)ヘンリを傷付けるため?それとも自分自身を傷付けるために?)僕は肉体関係の中で、混乱を極める道化師を登場させた。肉体関係。その言葉でさえ、パーキスさんの報告書を平手でぴしゃりと打った。彼は一度も書いたことがなかったのか、「私はシェダーロウドゥ16で行われていた肉体関係の直接的な証拠は持っていませんが、当事者は確かに騙す意志を見せました。」?しかしそれが後だった。この彼の報告書の中で、サラーが彼女の歯医者と彼女の仕立て屋を訪れる約束を書き留めた二つの機会に関して、それだけは覚えがあった。彼女は彼女の予約に、姿を現さなかった。もしそれが存在したとしても。彼女は気晴らしを避けた。それからパーキスさんのその薄いウェイヴァリ筆跡で、安い便箋に藤色のインクで書かれた大まかな文書の頁を捲りながら、僕は大胆で均整の取れたサラー自身の筆跡を見た。僕がおよそ二年後にそれを認めるなど、僕は考えもしなかった。

 それは報告書の裏にピンで留められた単なる紙屑だった。それには赤い鉛筆で大文字のAと記されていた。そのAの下に、パーキスさんは書いた、「可能な進捗のために重要なその全ての証拠書類は、書類整理のために返却されるべきです。その断片は神屑籠から持ち出され、それが恋人の手によってであったかのように、注意深く撫で付けてあった。そして確かに、それは恋人に向けて話されたに違いなかった。

75

2022年3月1日火曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

 Ⅱ

「親愛なるサー。」手紙は言った。「私と私の若い者が、17番で女中と親密に連絡を取らせて頂いて報告できるようになり、嬉しく思います。今回は、私は素晴らしい速さで調査を進行することが出来

ました。と申しますのも、私は時々、当事者の予定簿を横目で見ることが可能です。それにこのように動向を手に入れ、同様に、日毎当事者の紙‐屑籠の中身を点検しています。そこから、私は興味深い証拠物件を同封して置きます。どうかそれをご意見と共に返却して下さい。渦中の当事者も又、日記をつけていて、何年もの間、ずっと一冊を保持していますが、今後、私は私の友人として、より大きなな安心のために言及する女中が、今までそれに手を伸ばせなかったのです。その当事者は、同じ物を錠と鍵の下に置いておくという具合のようであること、それがよいのか、或いは、疑惑を起こさせる情況なのかも知れません。ここに添付した重要な証拠物件から離れ、当事者は、盲目に見做されるしかない彼女の予定簿に従って取り決められた会う約束を守ることもなく、時間の大半を費やしているように見えます。しかし個人的には、この依頼の調査に当たって、卑しい見方をしても、或いは偏見の眼差しを向けても、いい気はしません。真実そのものが、あらゆる当事者のために望まれます。

 僕たちは悲劇によってのみ、傷付くのではなく、怪奇も又、武器を運ぶ、品位を落としめる、とんでもない武器を。

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一週間で4千人くらいの訪問者になりました。

フランスが2千人近くでトップです。

改竄されてしまう可能性がありますから、読んで置いて下さい。