もしかしたらチャンスがあるかも知れないという理由だけでも、僕は開戦を歓迎したかった。たとえそれが僅かであろうと、彼の側のちょっとした戦術の誤りの所為で、僕は勝っていたかも知れない。それに、僕が非常に強く勝ちたいと願ってからも、それ以前も、僕が生まれてこの方、一度も好機に恵まれたことはなかった。優れた本を書こうという願望でさえ、そう頑なに持ってはいなかった。
彼はその赤い縁の付いた目で、僕を見上げ、言った。「ベンドゥリクス、僕は心配している。」僕はもはや、彼を贔屓にすることが出来なくなった。彼は苦悩の卒業生の一人と化した。彼は同じ学校に合格していながら、初めて僕は、対等な者として彼について考えた。僕は彼の机の上の、オクスフォードゥを背景にした、そのはしりの褐色の写真の一枚に見覚えがある。彼の父親の写真、それを見ながら、ヘンリに多少なりとも似ているか(それはほぼ同じ年代、四十半ばに写された)、いや、少しも似てはいないと僕は思った。それを違わせているのは、口髭ではなくーそれは、自信、森羅万象に精通していること、周りの事を熟知していることから来るヴィクトーリア朝の見掛けだった。と、突然、僕はまたもや親密な仲間意識を覚えた。僕は彼の父親(大蔵省にいた)を好きになろうとして来たのに、もっと彼を好きになった。僕たちは、他人同士だった。
「貴方は何が気懸かりなの、ヘンリ?」
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