Ⅴ
彼女は僕に言った―それは、彼女があの密会から玄関広間の中に雨の雫を滴らせながら入って来る前、彼女から僕が聞いた殆ど最後の言葉だった。「貴方はそう恐れる必要はない。愛情は果てない。先ず、私たちは他の者をそれぞれ見ないでしょ。彼女はもう彼女の決意を固めてしまっていた。それなのに、電話がリンとも鳴らない翌日まで、そのことを知らなかった。しかし、誰かの口をこじ開ける沈黙が、突如として探り当てる。彼女は言った、私の愛しい人、私の愛しい人。人々は、神を慈しみ続けるわね。全身全霊、彼の人に間見えもせずに。
「それは僕たちの愛の有り様とは、ずれている。」
「私は、時には、何か他の有り様があるなんて鼻っから思い込まない。」彼女は既に何処かの誰かの影響下にあると認めるべきだと僕は考える―僕たちが最初に二人だけになった時、彼女はそんな風に話したことはなかった。僕たちの世界から、神を除くことに、僕たちは大いに喜んで賛成した。僕は彼女の行く手を照らそうとして注意深く懐中電灯を向けた。彼女はもう一度言った。「何もかもみな正しいに違いないわ。もし私たちが十分に愛し合っていれば。」
「僕はこれ以上は、専心できない。」僕は言った。「貴女は全て手に入れた。」
「貴方には分からない。」彼女は言った。「貴方には分からない。」
窓からグラスが、僕たちの足元に砕け落ちた。古いヴィクトウリアのステインドゥ・グラスだけは、ドアの上にしっかりと固定されてそのままだった。グラスは白くなった、そこでそれは、子供たちが、雨で湿った畑の中か、道端に沿って割った氷のように粉状になっていた。彼女は又、僕に言った。「恐れないで。」彼女が、五時間後の今尚、蜂のように南からブンブン唸りながら着々と北上するその見慣れない新兵器を差し向けたのではない、と僕には分かった。
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