https://naritaetuko.jp成田悦子の翻訳テキストとちょっとしたこと

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2022年7月31日日曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

  「貴方は、40分は覚悟して置いた方がいいでしょう。」シルヴィアが言った。「貴方は、エヂウエア列車を待つことになります。」

 「フォースタ、」ウォタベリは、苛々して繰り返した。

 「その駅から貴方はバスに乗るしかありません。」シルヴィアは言った。

 「実際、シルヴィア、ベンドゥリクスはゴウルダズ・グリーンへの着き方について話す為にここに来て貰ったんじゃないんだよ。」

 「私は、済まなく思います、ピータ、私は本当に思います・・・」

 「思う前に6数えなさい、シルヴィア、」ウォタベリは言った。「それではさて、僕たちはE.M.フォースタに戻せますか?」

 「僕たちに必要ですか?」僕は尋ねた。

 「貴女はこんな色々な学校に属しているので、そりゃあ面白いだろうね・・・」

 「彼は、学校に属しているの?僕がしたことを、僕は分かってもいなかった。貴女は、教科書を書いて

いるの?」

 シルヴィアは微笑み、彼はその笑みを見た。僕は、その瞬間から、彼は、彼の取引の武器を鋭く研いではいるが、そのことは、僕には重要ではなかった。無関心と誇りは、大変よく似て見える上に、彼は多分僕のことを自慢げだと思った。僕は言った、「僕は、本当に行くことになっているんです。」

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2022年7月30日土曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

  「ゴウルダズ・グリーンで葬式、」ウォタベリは叫んだ。何と貴方自身の品位の一端らしい。それならゴウルダズ・グリーンにいなければならないでしょ?

 「僕は、場所を選ばなかった。」

 「芸術を模写している暮らし。」

 「それは友人ですか?」シルヴィアが、同情して尋ねると、ウォタベリは、睨みつけて彼女の見当違いを表した。

 「はい。」

 彼女は、あれこれ思い巡らしていたと、僕には見受けられた―男?女?どんな種類の友人?そしてそれは、僕を満足させた。僕は、彼女に対して人間で、小説家ではなかったから。友人が死んで、彼らの葬式に出席する、満足と痛みを感じる、慰安さえ必要としてもいい、多分仕事は、モーム氏のものよりずっと卓越した共感を得、熟練工そのものではなく、勿論、同じくらい高くそれを位置付けられないが、一人の男だった。

 「貴方は、フォースタをどう思いますか?」

 「フォースタ?オウ、申し訳ないが、ゴウルダズ・グリーンまで、それがどれだけかかるか、僕にはまるで分からない。」 

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2022年7月29日金曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

ウォタベリは、トッテナム・コートゥ・ロウドゥ外れのシェリ‐バーで待っていた。彼は、黒いコーデュロイのズボンを履き、安い煙草を吸い、彼より桁違いに背が高く、見栄えのいい、同じ感じのズボンを履き、同じ煙草を吸う女を、彼の側に連れていた。彼女は随分若く、彼女はシルヴィアと呼ばれた。専(もっぱ)らウォタベリ付きで始まった勉強の長いコース上にあって―彼女は、彼女の教師を見習う段階だった。そうした見せかけ、そうした用心深い天性の有能な眼差しと髪、イルーミネイシャンの金を持つ、僕はどことなく不思議に思った。彼女は、けりをつけるだろう。彼女は、十年の内にウォタベリを、トッテナム・コートゥ・ロウドゥ外れのバーを思い出したりするのだろうか? 僕は彼を気の毒に思った。彼は、今は大層自信ありげで、僕たち二人に大層なパトロン気取りだが、衰退して行く側にいた。何故、僕は思った、意識の流れに関する彼の特に独りよがりなコメントゥで、僕のグラス越しに彼女の眼差しを捕えながら、今直ぐにでも彼女を彼から手に入れることが出来ると。彼の記事は、新聞に閉じられたが、僕の本は、布地で製本された。彼女は、僕からはもっと学べると知っていた。そして未だに、哀れな悪魔、時に、彼女が素朴な人間の知的ではないコメントゥをすると、彼は、彼女をわざと無視するような神経を持っていた。僕は、彼に虚しい未来と戒めたかったのに、僕は、もう一杯飲み、言った、「僕は長くはいられません。ゴウルダズ・グリーンの葬式に行くことになっています。」

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2022年7月28日木曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

 僕は、彼の記事の仰々しい表現を、余りにもよく知り過ぎていた。彼は、僕が気付かなかったことを発見し、欠陥は、正視すると嫌気が差す。挙句の果てに贔屓にしても、彼は、僕を位置づけようとする―おそらくモームの少し上に、モームは、世間に広く行き渡っているから、それに僕は、未だその罪は犯していなかった―未だしてない、しかし不成功というささやかな排他性を維持し、そのちょっとした書評は、賢い刑事のように、その道すがら、嗅ぎ付けてしまう。

 何故僕は、コインを投げる程、今まで悩んだのか?僕は、ウォタベリに会いたくなかったし、僕は確かに色々書かれたくなかった。僕は、今や、僕の興味の限界に達していたから。誰も賛辞で僕をひどく喜ばせたり、或いは、非難して僕を傷付けたり出来ないから。僕が、今尚興味を持つ官吏に関するその小説を始めた時、しかしサラーが僕を残して逝った時、僕の仕事、それは何の為だったか―何週、何年中、何かを得ようとして、煙草同様、何の役にも立たない薬物のような。僕たちが死によって消滅するのなら、僕は尚も信じようとしても、瓶や衣服や、安い宝石以上に、何冊かの本を後世に残すことに、そこに何の利点があるのか?そしてもしサラーが正しいのなら、重要な芸術の全ては、如何に重要ではないのか。僕はコインを放り投げて決めたのは、僕は、単に、孤独からだけだと思う。葬式の前、僕は何もすることがなかった。僕は一、二杯の酒で元気付けたかった。(誰でも自分の仕事を心配しなくなるのはいいが、誰でも集会を気にしなくなり、一人前の男が、人前で取り乱してはいけない。)

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2022年7月27日水曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

  そこには、もう何もなかった。彼女は、それらが話される前でさえ、彼女の祈りに答えて貰うコツを持っていたように思うのは、彼女が雨の所為で入って来て、ヘンリと一緒の僕を見つけたあの夜、彼女は、死ぬことにとりかかったのではなかったか?もしも僕が小説を書いていたら、僕は、それをここで終わろうとしただろう、僕は何時も思う、何処かで終わることにしなければ、と、しかし僕は、僕の実在主義は、この何年もずっと、欠陥のままだった、と信じ始めている。今や、人生に於ける何事も、何れ終わるように思えるものはないのに。化学者は、決して物質は完全に破壊されない、と貴方に話し、数学者は、もし貴方が部屋を横切ろうとして各歩調を二等分すると、貴方は何時までも反対側の壁に達さないだろうと貴方に話す。この物語がここで終わると考えたとしたら、僕は何と楽観主義者なのだろう。只々、サラーのように、僕が馬並みに強くない方がいいのだが。



僕は、葬式に遅れた。或るちょっとした書評に、僕の作品に関する記事を書こうとしていたウォタベリという男に会いに、街中に出掛けてしまった。僕は彼に会おうか、どうしようか、コインを投げて決めた。

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2022年7月26日火曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

私が貴方を愛すように、以前、私は愛したことはなかった。私が今信仰するように、以前、私は何かを信じたことはなかった。私は確信しています。私は、何かにつけ、以前、確信がなかった。貴方が、貴方の顔を血まみれにして、ドアの所に入って来た時、私は確信するに至りました。一時(いちどき)に何から何まで。喩え、その時、私がそれを知らなかったにせよ。私は、愛と格闘するよりずっと長く、信じることと格闘しましたが、私には、どんな闘争心も残っていません。

 モーリス、親愛なる人、怒らないで。私を可哀そうだと思って、でも怒らないで。私はいんちきでぺてんだとしても、これは、いんちきでもぺてんでもありません。私は、私自身のことを、確かだと当たり前のように思っていたので、何が正しくて間違っているのか、貴方は私に確信しないように教えました。貴方は、私の嘘の全てと自己‐欺瞞を、それらが、道伝いにやって来る誰か、大切な誰かの為に、瓦礫の道を奇麗にするが如く、取り去り、そして今、その人がやって来ましたが、貴方は、その道、貴方自身を身綺麗にしました。貴方が書く時、貴方は正確であろうとし、貴方が真実を追い求めるように、と私に教え、そうして貴方は、私が真実を語ろうとしなかった時、貴方は、私に話しました。貴方は、本当にそう思うのか、貴方は言おうとして、或いは、貴方がそう思うと思っているだけなのか。そう、それは、皆貴方の欠陥、モーリス、皆貴方の欠陥だ、と貴方には見て欲しい。こんな風に、私を生き続けさせようとしない、彼の人、神に、私は祈ります。

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2022年7月25日月曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

あらゆる機会に、私がこんな希望を持つ不可思議を、彼に問いました。それは、新しい家の鎧戸を開けることに、その見晴らしに目を向けることのようで、すると全ての窓は、まさに白地の壁に面していました。いいえ、いいえ、いいえ、彼は言いました、私は貴方と結婚出来ない、私は貴方の顔を見続けることは出来ない、もし私がカサリクになるつもりがなければ。私は、思いました、彼らの全運命もろとも地獄へ、そして私が彼と面会していたその部屋から、私は歩いて外に向かい、私が牧師連中について思う何かしらを知らしめる為に、ドアをバタンと閉めました。彼らは、私たちと神の隔たりになると私は思いました。神はもっと慈悲心を持ちます。それから私は教会の外に出て、彼らがそこに持つクライストゥ磔刑像(たっけいぞう)を見て、私は思いました、勿論、彼は慈悲心を手に入れました、只それはこんなにも或る種可笑しな慈悲心です。それは、時に罰の様相を帯びます。モーリス、私の愛する人、私は、嫌な頭痛がします。私は、死ぬような気がします。私は、馬ほど丈夫ではなくて良かった。私は、貴方なしで生きたくない、それに私は知っている、私が貴方に共有地で会い、その後、私は、ヘンリも、神も、どんなことについての罵りの言葉も気にしない一日を。それにしても、何が善でしょう、モーリス?そこいらに神はいると信じます。―欺瞞の鞄丸ごと、私は信じます、そこいらに、私が信じないものは何一つありません。彼らは、一ダズンの断片に、三位一体を細分出来ます。すると私は信じます。クライストゥは、彼自身を宣伝して売り込ませる為に、ピラトゥによって創案されたことを証明する記録を、彼らは掘り起こせます、すると私は信じます、全く同様に。私は、病気のように信仰に感染しました。私は、私が恋に溺れたように、信仰の中で溺れました。

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2022年7月24日日曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

 「最愛の人モーリス、」彼女は書いた、貴方が去った後、あの夜、私は貴方に書こうとしたけれど、私が家に着いた時、私は、かなり具合が悪いと感じ、又ヘンリは私のことで気を揉みました。私は、電話する代わりに書きます。私は、貴方と一緒に遠くへ行くつもりはない、と私が口にすると同時に、気が変になりそうで、私は電話を掛けて貴方の声を聞けない。だから私は貴方と一緒に遠くへ行くつもりはないの、モーリス、最愛の人モーリス。私は、貴方を愛しているのに、私は、もう一度、貴方に会うことは出来ない。この痛みの最中を、私はどう生きようとすればいいのか、私には分からず、思い焦がれるだけで、私は、時間の許す限り、彼が私に厳しくしないようにと、彼が私を生き続けさせないようにと、神に祈っています。親愛なるモーリス、私は私のケイクを手に入れたい、それを食べたい、他の皆のように。貴方が私に電話を掛ける以前、二日前に、私は牧師のところに赴き、私は、カサリクになりたい、と彼に話しました。私は、私の誓いや貴方について、彼に打ち明けました。私は言いました、私は、実際、もうヘンリに添い遂げられないと。私たちは一緒に眠らない―貴方との最初の一年からではなく。それは、本当に結婚ではなかった、私は言いました、貴方が、出生登録事務所を結婚式場と呼べなかったと。私は彼に、私はカサリクになって、貴方と結婚出来ないか、と尋ねました。貴方が、官公庁事業をすり抜けても気にしない、と私は知っていました。

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2022年7月23日土曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

僕たちは恋の向こう側を見るようになったが、僕たちが御されていた方角に気付いたのは、それは、僕だけだった。爆弾が一年早く落ちていたら、彼女は、あの誓いを立てなくて済んだ。彼女は僕を開放しようとして、彼女の爪を引き剝がそうとした。僕たちが人間の終わりに手を掛ける時、僕たちは神の信仰へと、僕たち自身を欺こうとする、彼の食物に添える、より複雑なソースを追い求める美食家のように。僕はホールを見た、独房のようにすっきりとした、グリーンのペイントゥにぞっとする、そこで僕は思った、彼女は、僕に二度目のチャンスを与えたがったが、それは、ここにある、虚しい暮らし、無臭、防腐、刑務所の暮らし、そうして僕は、彼女の祈りが、実際、変化をもたらしてしまったかのように、彼女を責めた。暮らしに向けて、貴女が僕に有罪判決を下したくなるような何を、僕は貴女にした?階段と手すりは、階上のあちこち新しさに軋んだ。彼女は、一度もそれらを歩いて上ることはなかった。家屋の修復でさえ、忘却の課程の役目を担った。全てが変わる時、覚えていること、それには、時とは別に神を要する。僕は未だ愛していたのか、或いは、僕は、只愛したことを悔いていただけなのか?

 僕は、僕の部屋の中に入り、机上に、サラーからの一通の手紙を置いた。

 彼女は、24時間死んだ状態で、それよりずっと長い間、意識を失っていた。細長い共有地を横切るのに、どうしたらそんなに長くかかってしまうのか?その時、僕は、彼女が僕の番号を間違って置いたということを見て知った。すると少々懐かしい苦々しさが、滲み出した。彼女は、二年前、僕の番号を忘れる筈がなかった。

 彼女が書いたものを見る思い、そこには、随分多くの痛みがあったから、僕は、ガス‐火へと向かうその手紙を、それでもどうにかこうにか持ち堪えた。何れにせよ、好奇心は、痛みより強くなり得る。それは、鉛筆で書いてあった。彼女がベドゥで書いたからだ、と僕は思う。

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2022年7月22日金曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

 「貴方は、少しは祈りの言葉を知っていますか?」

 「いいえ。」

 「貴方が信仰しない神に祈ること、それは好ましいとは思えない。」

 僕は、家から出て、彼に付いて行った。ヘンリが起きるまで残っても、そこには、何の利点もなかった。多少早くとも遅くとも、彼は、彼自身に基づいて存在することに直面するしかなかった、まさに僕がそうして来たように。僕は、僕の前を、スマイズが共有地を横切って、彼の道を急にせかせか動くのを見守った。そこで僕は思った、ヒステリカルなタイプだと。不信仰は、まさに信仰同様、多くは興奮の所産である筈。大勢の人々の通行が、それを溶かしてしまった所の雪の泥濘(ぬかるみ)が、僕の靴底からじわじわ滲みて、僕の夢の雫を僕に思い起こさせはしたが、「気を遣わないで、」と言っている彼女の声を思い出そうとした時、僕が音の響きを求めても、空虚な記憶を抱き締めるだけと気付いた。僕は、彼女の声を真似られなかった。僕は、それを風刺さえ出来ず、僕はそれを思い出そうとした時、それは、匿名だった―まるで何処かの婦人の声。彼女を忘れることの手順は、整った。僕たちは、写真を保存するように、蓄音機レコードゥも保存すべきだ。僕は、ホールの中へと、壊れた階段を上った。何一つなくとも、ステインドゥ・グラスは、1944のあの夜と同じだった。誰ということではないが、何らかの兆しに感付く。サラーは、彼女が僕の死体を見た時、終わりが来た、とまともに信じた。終わりは、随分前に始まっていた、と認めようとはせず、この、或いはあの不十分な理由の為に、益々減った電話の呼び出し音、恋の終わりという危険を、僕が察知したために僕が彼女に仕掛けた口論。

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2022年7月21日木曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

「それで全部です。」彼は言った。

 「貴方は、どんな権利も持っていない。」

 「オウ、彼女は、今はもう誰にも属さない、」彼は言い、すると突然、僕は彼女を見たような気がした、何の為に、彼女は―片付けられるのを待っているだけの廃物の小片になったのか、もし貴方が僅かな頭髪を必要としたら、貴方は、それを手に入れ、彼女の爪を切り取ることも出来た、もしも爪を切り取ったものが、貴方に価値があれば。聖者のもののように、彼女の骨は、ばらばらに分けられても仕方なかった―もしも誰彼となくそれらを求めたら。彼女は、間もなく焼却されようとしていた、そう彼が真っ先に欲しがったものを、何故誰もが自分のものにしようとしてはいけないのか?何としてでも、僕が彼女を所有したその姿を描くのに、三年もの間、何と愚か者だったことか。僕たちは、僕たちそのものでさえない、誰でもないものによって所有される。

 「僕は済まなく思う、」僕は言った。

 「彼女が僕に何を書いたか知っていますか?」スマイズは尋ねた。「あれは、ほんの四日前でした、」そこで僕は悲しくなった、僕に電話することもなく、彼女は、彼に書く時間を持つしかなかったんだ。「彼女は書きました―私の為に祈って下さい。それは変だと思いませんか、彼女の為に祈るよう、僕に頼むのは?」

 「貴方は、何をしたの?」

 「オウ、」彼は言った、「彼女が死んだと僕が聞いた時、僕は祈りました。」


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2022年7月20日水曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

 「それで、そのことで僕は何をすればいいの?」

 「彼女は、彼女の夫は貴方に大いなる敬意を払っている、と何時も言っていた。

 彼は、不条理のスクルーを、余りにも遠くまで回していた。僕は、笑い声で、この埋もれた部屋の死の状態を粉砕しようと思った。僕は、ソウファに座り、僕は、そうして揺さぶり始めた。僕は、二階のサラーの死体と、彼の顔に愚かな笑みを浮かべたヘンリと、彼のドア‐ベルに粉を振り掛ける為に、パ―キス氏を雇って来た恋人と葬式を論じている痣を持った恋人を思った。僕が笑っている内に、僕の頬に涙が走り落ちた。一度だけ、急襲の最中、僕は、彼の妻子が生き埋めにされた彼の家の外で、一人の男が笑っているのを見た。

 「僕には分からない、」スマイズは言った。彼の右の握り拳は、彼が彼自身を守る準備が整ったかのように閉じた。そこには、僕たちが理解しない多くのことがあった。痛みは、僕たちを揃って投げ飛ばす説明しがたい爆発に似ていた。「僕はそろそろ行きます、」彼はそう言って、彼の左手でドア‐ノブに手を掛けた。唐突な考えが、僕に浮かんだ、彼は、左利きだと信じる理由は、まるでなかったから。

 「貴方は、僕を許すしかない、」僕は言った。「僕はガタピシしている、僕たちは、何もかもガタピシしている。」僕は、僕の手を彼の方へ伸ばした。彼は、躊躇いながらも、それに左手で触れた。「スマイズ、」僕は言った、「貴方は、そこで何を手に入れたの?彼女の部屋から何か持って来たの?」彼は、彼の手を開き、切り取った髪の毛を見せた。」

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2022年7月19日火曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

 「僕は道理を弁えなかった。」彼は言った、「僕は彼女を見られる、と思いませんか?」そして僕は、葬儀屋の重いブーツが下りて来るのを聞いた、僕は、同じ段が軋むのを、耳にしたことがある。

 「彼女は、二階で横になっている。左の最初のドア。」

 「もしマイルズ氏が・・・」

 「貴方は、彼を起こさないで。」

 僕は、彼が又、下りて来る時までに、僕の服を身に付けて置いた。彼は言った、「貴方に感謝します。」

 「僕に感謝しないで。僕は、貴方がそうするよりずっと彼女を自分のものにしてはいない。」

 「僕には、尋ねる権利さえ得ていなかった、」彼は言った、「しかし、僕は、貴方がそうするのを望みます―貴女は、彼女を愛した、僕には分かります。」彼は、彼が苦い薬を呑んでいるかのように付け加えた、「彼女は、貴方を愛した。」

 「貴方は、何を言おうとしているの?」

 「僕は、貴方が彼女の為に、何かしたらいいのに、と思っています。」

 「彼女の為に?」

 「彼女に、彼女のカサリク葬式を催させて上げて下さい。彼女は、それを好んだでしょう。」

 「いったい、それは、何が違っているんですか?」

 「彼女の為に少しでも、と僕は思わない。何れにせよ、それで、何時も、彼女が鷹揚であるが故に、僕たちに代償を支払う。」

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2022年7月18日月曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

 「途方もない。」

 「彼女は僕に書きました。彼女は彼女の心を決めました。僕が、口を挟めなかったことで、少しはましになったでしょう。彼女は始めていました―Instruction(指導)を。それは、彼らが使う言葉ではありませんか?」つまり、彼女は未だ秘密を持っていた、と僕は思った。彼女は、彼女の日記にそれを載せていなかった、彼女が、彼女の病気について載せなかった以上に。どれだけもっと多くの発見すべきことが、そこにあったのやら?その思いは、絶望に近かった。

 「それは、貴方にとって衝撃だったんじゃないの?」僕は、僕の負傷を転嫁しようとして、彼をあざけた。

 「オウ、僕は勿論、怒りました。しかし、僕たちは誰しも、同じ物事を信じられはしない。」

 「それは、貴方が何時も主張することではない。」

 彼は、僕を見た、まるで僕の敵意で困惑したかのように。彼は言った、「どんな場合でも,貴方の名前は、モーリスですか?」

 「そうです。」

 「彼女は、僕に貴方のことを話しました。」

 「そして僕は、貴方のことを読んだ。彼女は、僕たち二人をこけにした。」

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2022年7月17日日曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

 彼は言った、「僕は、帰ります、」そして侘びし気にあちらに向きを変えた、つまり、彼の醜い頬は、僕の方に向けられたということ。僕は思った、それは、彼女の唇が静止した側だった。彼女は、何時も哀れみから、罠に掛けられがちだ。

 彼は、呆けたように繰り返し、「僕が、マイルズ氏

を一目見たくて遣って来ましたのは、何と気の毒なと言いたくて・・・」

 「書くこと、それが、このような機会には、より一般的です。」

 「僕も何か役に立てればいいのに、と僕は思いまして、」彼は、弱々しく言った。

 「貴方は、マイルズ氏を改宗させる必要はありません。」

 「改宗?」彼は気楽に不幸を尋ね、狼狽した。

 「そこには、彼女に関して残されているものは何もないという事実。終わり。全滅。」

 彼は、突然打ち明けた、「僕は、彼女を見たかった。それが全てです。」

 「マイルズ氏は、貴方が存在するのを、知りもしない。そりゃあ、あまり貴方に思い遣りがあるとは言えない、スマイズ、ここに来るなど。」

 「葬式は、何時ですか?」

 「ゴウルダズ・グリーンで明日。」

 「彼女は、それを望んでいなかった、」彼は言い、驚きによって僕に取り入った。

 「彼女は、何ものも信じなかった。貴方がすることに貴方が主張するよりずっと。

 彼は言った、「貴方は、少しも知らないのですか?彼女は、カサリクになろうとしていました。」

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2022年7月16日土曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

 「彼は、マイルズ婦人の友人とのことです。」彼女は言ったが、唯一の機会故、僕たちの卑劣な協力への彼女の貢献を容認した。

 「貴女は、彼を通した方がいい。」僕は言った。僕は、スマイズに対して、今や優越を感じていた、サラーの客間に座りながら、ヘンリのパジャーマズを着て、彼が僕について何も知らない間に、随分たくさん調べ上げて。彼は、途惑いながら僕を見て、寄せ木細工の床の上に雪を滴らせた。僕は言った、「僕たちは一度会っています。僕は、マイルズ婦人の友人です。」

 「貴方は、貴方と一緒に若い方を連れていました。」

 「その通りです。」

 「僕は、マイルズ氏を一目見たくて遣って来ました。」

 「貴方は、ニュースを聞きましたか?」

 「それが、僕が来た理由です。」

 「彼は、眠っています。医者が、彼に丸薬を服用させました。それは、僕たちの誰にも酷い衝撃でした。」僕は、馬鹿みたいに付け加えた。彼は部屋をぐるりと見詰めていた。シーダ・ロウドゥで、何処にも出かけることなく、彼女には、広がりがないようだった、と僕は思った、夢のように。しかしこの部屋は、彼女に厚みを与えた、それも又サラーだった。雪は、ゆっくりとスペイドゥから鋳型のように窓敷居に乗った。部屋は、サラーのように埋もれていた。

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2022年7月15日金曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

朝食時間に、ヘンリは未だ眠っていた。パ―キスがそそのかしたメイドゥが、トゥレイに載せて、僕の為にコーフィとトウストゥを持って入って来た。彼女がカートゥンを引くと、霙は、突然雪に変わった。僕は未だ眠気と、僕の夢の中身でぼんやりしていたが、僕は、彼女の目が時を経た涙で、赤く見えて驚いた。「何か心配があるの、モードゥ?」僕は尋ね、空っぽの家と空っぽの世界に、僕が当たり前のように目覚めて現れたので、トゥレイを下に置き、猛烈な勢いで歩いて出た。僕は、上に行って、ヘンリを覗いた。彼は未だ、犬のように笑みを浮かべながら、薬を服用した深い眠りの最中にあり、僕は彼が羨ましかった。それから下に行って、僕のトウストゥを食べることにした。

 ベルが鳴り、メイドゥが誰かを二階に案内しているのを、僕は聞いた―葬儀屋、僕は思った、客—室のドアが開くのが聞こえたから。彼は、彼女の死体を見ていた。僕は未だだったが、他の男の腕の中の彼女を見ることを望むよりもっと、僕にはまるで意向はなかった。男には、その方がかえって元気付けられる者もいるのかも知れない。誰も、死人の為に僕に売春の仲介をさせない。僕は僕の心を取り出し、僕は考えた、今に、何もかも本当に終わるのだと、僕は又遣り直すことになってしまった。僕は嘗て恋に溺れたが、それは再び為され得る。それでも僕は納得しなかった、それは、僕が遠ざかって抱いた性の全てを、捧げつくしたような気がしたから。

 又ベルが。何と多くのビズニスが、ヘンリが睡眠中に、家の中で繰り広げられるのだろう。今度は、モードが僕の所に遣って来た。彼女は言った、「実は。マイルズ氏に尋ねたいことがあるという紳士が階下にいますが、私は彼を起こしたくありません。」

 「それは、誰なの?」

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2022年7月14日木曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

僕はオクスフォードゥ・ストゥリートゥを上りながら、僕はプレズントゥを買おうとして、僕は、悩んでいた。どの店にも、安い宝石は沢山あった。隠された照明の下(もと)、 きらきら輝いている安い宝石なら沢山あった。今もあの頃も何か美しい物を見ると、僕はガラスに近付きたくなるが、僕が近くで宝石を見ると、それは、他の全て同様、人工的だ。―おそらくぞっとする緋色の目を持った緑色の鳥は、ルービの感じを与えるつもりだ。時間がなかったので、僕は店から店へと急いだ。その時、或る店の外に、サラーが遣って来た。彼女は、僕の役に立とうとするのは僕は分かっていた。「貴女は、何か買ったの、サラー?」「ここではないけど、」彼女は言い、「でも、もっと行ったら、そこに幾つも可愛い小瓶があるわ。」

 「僕は、時間がない、」僕は彼女に頼んだ、「僕を助けて。明日の誕生日の為に、僕は何か見付けようと

していたところ。」

 「気を遣わなくていいのよ、」彼女は言った。「どんな物でもきっと気に入るわ。気を遣わないで。」すると僕は、突然、心配がなくなった。オクスフォードゥ・ストゥリートゥは、その境界線を広大な鉛色の霧の原野に伸ばしていた、僕の足は裸足で、僕は露の中を歩いていた。一人で、浅い轍(わだち)によろけながら、僕は目を覚ました、未だ聞こえていた「気を遣わないで。」耳に閉じ込められた囁きのように、子供の頃にあった夏の音。

 朝食時間に、ヘンリは未だ眠っていた。パ―キスがそそのかしたメイドゥが、トゥレイに載せて、僕の為にコーフィとトウストゥを持って入って来た。彼女がカートゥンを引くと、霙は、突然雪に変わった。

208

2022年7月13日水曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

ヘンリは、それから何を成そうとするのか、つまり僕たちの誰も気にも留めないリカーの小瓶や、海水で磨かれたグラスの欠片、そして僕がノッチンガムで見付けた小さな木の兎。僕は、僕共々、これらの物を皆、持ち去った方がいいのか?そうでもしなければ、ヘンリが片付ける為に、そこいら中、手を付ける時、それらは、紙―屑籠の中に入ってしまうだろうが、僕は、それらの同行に耐えられるだろうか?

 僕は、それらを見ていたら、ブランキトゥを背負って、ヘンリが入って来た。「僕は、言い忘れた、ベンドゥリクス、もしそこに貴方が持って行きたい物があれば・・・彼女は遺書を残した、と僕は思わない。」

 「それは貴方らしい。」

 「僕は今、彼女を愛した誰も彼も、感謝している。」

 「良ければ、僕はこの石を持って行きたい。」

 「彼女は変な物を持っていた。僕は、貴方に僕のパジャーマ一揃いを持って来た、ベンドゥリクス。」

 ヘンリが枕を持って来るのを忘れたので、クションに僕の頭を預けながら、彼女の香りを嗅ぐことが出来たら、と僕は空想した。僕が二度と持つ筈のない物を、僕は望んだ―そこには代わりの物はなかった。僕は眠れなかった。僕は僕の爪を僕の掌に押し付けた、彼女が彼女のものでそうしたように、だから、その痛みが、僕の脳が作動するのを妨げるといいと、僕の願望の振り子は、嫌になる程、向かっては逆戻りして振れた、忘却への願望、記憶への願望、死ぬことへの、そして生き続けることへの、差し当たって。そしてその後、やっと僕は眠った。

207 

2022年7月12日火曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

彼女は、今彼女が死んでいるように、あの頃も、彼女は死んだも同然だった。今年一、二カ月間、亡霊は、僕を希望を餌に苦しめたが、亡霊は横たえられ、苦しみは、間もなく終わろうとしている。僕は、日に日に少しずつ、より死にたくなるにしても、僕はそれをどれだけこらえようと切に願うか。人が、人が生きるのを煩わせる限り。

 「ベドゥに行きなさい、ヘンリ。」

 「僕は、サラーの夢を見るのが心配だ。」

 「医者の丸薬を飲めば、見ないよ。」

 「貴方もそれが欲しいか、ベンドゥリクス。」

 「いや。」

 「貴方は、要らないんだね。貴方は、一晩いてくれるの?そりゃあ外は、汚い。」

 「僕は天気を気にしない。」

 「貴方は、大変な好意を僕に示してくれている。」

 「当たり前だよ、僕はいるよ。」

 「僕は、シートゥとブランキトゥを、持って下りるよ。」

 「気にしなくていいよ、ヘンリ、」しかし彼はいなくなった。僕は、寄せ木細工の床に目をやると、彼女の泣き声そのままの音色を思い出した。彼女が、彼女の手紙を書いた机の上には、散らかった物があり、どれも符号のようで、僕は解釈可能だった。僕は思った、あの小石でさえ、捨てていなかった。僕たちはその形を笑い、そこにそれは未だある、文鎮として。

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2022年7月11日月曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

  「僕は、この祈りと墓‐掘りの騒動の全てが嫌だが、サラーがそれを良しとしたら、僕は、それを手配させよう。」

 「彼女は、彼女の結婚式を出生登録書ですることにした、」僕は言った、「彼女は。彼女の葬儀が、教会になればいい、と思いもしない。」

 「いや、僕は、それが本音だと思わないよね。」

 「登録と焼却は、」僕は言い、「それらは、共にℍ運び、」すると暗がりで、ヘンリは彼の頭を持ち上げ、まるで彼は僕の皮肉を疑うかのように、僕の方をじっと見詰めた。

 「貴方の手を煩わせないで、その全てを僕に任せてくれ。僕は仄めかした、まさに同じ部屋の中、同じ炉火の側、僕は仄めかして来た、彼の所為でサヴィジ氏を訪ねていると。

 「そうすることが、貴方もいいんだね、ベンドゥリクス。」彼は、極めて慎重に、公平に、僕たちのグラスに最後のフイスキを流し込んだ。

 「真夜中だ、」僕は言い、貴方は少し睡眠を取らなきゃいけない。出来るなら。」

 「医者が、僕に少し丸薬を残してくれた。」しかし彼は、未だ一人切りになることを望まなかった。僕は、彼がどんな気持ちでいるか、正確に知っている。何故なら、僕も又、サラーと一緒だった一日後、出来るだけ長く、僕の部屋の寂しさを先に延ばそうとする。

 「僕は、彼女が死んでいるのを思い出さないようにしている、」とヘンリが言った。そして僕は、それをも経験してしまった。1945中ずうっと―悪い年―忘れながら、僕たちの恋愛‐事件は終わったと、電話が彼女以外のどんな声でも運べばいいのにと、僕が目覚めた時。

205

2022年7月10日日曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

 「オウいや、ヘンリ。彼女は、貴方や僕以上に、何かを拠り所としてはいなかった。」僕は、彼女が妬き尽く去れたらと願い、僕は言えたらと望んだ、貴方に出来るものなら、その体を復活させてみなさいと。僕の嫉妬は、尽きなかった。ヘンリのそれに似て、彼女の死を以てしても。それは、彼女が未だに生きているかのように、彼女が僕に対して望む恋人という関係のにあった。僕は、彼らの永遠性を中断する為に、パ―キスを彼女の後に送れたらと、どれだけ願っただろう。

 「貴方は、本気か?」

 「本気だよ、ヘンリ。」僕は思った、僕は慎重になってしまった。僕は、リチャドゥ・スマイズのようになってはいけない、僕は嫌がってはいけない、何故なら、もし僕が心底嫌ってしまったら、僕は信じようとし、もし僕が信じようとしたら、貴方と彼女の為にどんな勝利が。ここは、演技をすることだ、復讐や嫉妬について語り合いながら。それは、まさに何か脳を満たすものだ。だからこそ、絶対的な彼女の死を忘れられる。一週間前、僕は、何の気なしに彼女に言った、「貴女は、あの初めて二人揃った時を、それにミータの代金一シリングを、どうにもこうにも僕が手にしていなかったのを覚えている?、だからそのシーンは、僕達二人の為に、そこになくてはならない。今は、只僕だけの為に、それはそこにある。彼女は、僕たちの思い出の全てを見失った、永遠に、そしてそれは、死ぬことに託(かこつ)けて、彼女は、僕自身の一部を僕に失わせたのだ。僕は、僕一個の体裁を失いつつあった。それは、腕木のように、剥がれて落ちる思い出、僕自身の死の初舞台だった。

204

2022年7月9日土曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

彼女がうわ言を言った時(勿論、彼女に責任はなかった)、看護婦は、彼女は牧師にずっと聞いていた、と僕に教えた。少なくとも彼女は、ファーザ(父である神)、ファーザ、と言い続けた、そしてそれは、彼女自身である筈がなかった。彼女は、彼を理解したことがなかった。勿論看護婦は、僕たちがカサリクではないと知っていた。彼女は、実に賢明だった。彼女は、彼女を宥めた。しかし僕は、悩んでいる、ベンドゥリクス。」

 僕は、怒りと苦々しさと共に考えた、貴女は、不憫なヘンリを一人残して去ってもいいんだろう。僕たちは、貴女を手放して何年も遣って来た。何故貴女は突然、あらゆる立場の中に割り込み始めるはめになってしまったのか、対蹠地から見知らぬ親族が戻って来たように。

 ヘンリは言った、「誰でも、ロンドンに住んでいれば、火葬が、最も拘りのない方法なんだが。看護婦が、それを僕に言うまで、僕は、それをゴウルダズ・グリーンで執り行おうと計画していた。葬儀屋は、火葬場に電話を掛けた。彼らは、明後日サラーを納める。」

 「彼女は、うわ言を言っていた」と僕は言い、「貴方は、話しの中で、彼女が何と言おうと受け止める必要はない。」

 「僕は、そのことについて牧師に聞くべきかどうか迷った。つまり、彼女は、カサリクになってもよかったと僕は理解しているから。彼女は、最近、何だか妙だった。」

203

2022年7月8日金曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

 「僕は、医者が助けたと思う。」

 「彼は、この冬、忙しくしていた。彼が、葬儀屋に電話を掛けた。僕は、何処に行くべきか、調べようともしなかった。僕たちは、職業電話帳を持った例がなかった。しかし、医者は、彼女の衣服をどう処理すべきか、僕に話す筈がない―カバドゥ(食器戸棚)は、そうしたもので溢れている。カムパクトゥ、香水―誰でも、むやみやたらに捨てられない・・・只、もし彼女が、姉妹でも持っていれば・・・」正面のドアが開き、閉じた為に、彼は、突然止めた。まさにそれは、彼が「メイドゥ、」と言い、僕が、「あれはサラーだよ。」と言った、あの何時かの夜にも起こったように。僕たちは、二階に上がって来るメイドゥの足音に耳を澄ました。一つの家がどんなに空疎でも、その中に三人も一緒にいられるのは、それは、奇妙ではあった。僕たちは僕たちのフイスキを飲み、僕は、もう一杯注いだ。「僕は、家の中を大勢にした、」ヘンリが言った。「サラーは、新しい拠り所を見付けた・・・」そして、又止めた。彼女は、何処の細道の外れにも立っていた。そこには、一瞬の間さえ、彼女を避けようとする目当ては、まず見受けられなかった。僕は思った、何故貴方は、僕たちにこうしたことをしなければならなかったのか?彼女が貴方を信仰しなかったら、彼女は、今尚生きているに決まっていて、僕たちは当然、未だに恋人だった。この境遇を不満に思って来たと覚えているのは、それは悲しくもあり、可笑しくもあった。僕は、彼女を、今やっと幸せそうに、分かち合おうとしていた。

 「僕は言った、「それで葬儀は?」

 「ベンドゥリクス、僕は、どうしていいか分からない。何かかなり手こずらせる事態になった。

202

2022年7月7日木曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

 


 僕たちお互いの為に、為すべきことは、そこには何もなかったが、もっとフイスキを注いでくれ。僕は何処までも追及する為に、パ―キスに支払った新参者のことを思った。新参者が、確かに最後に勝った。否、私は思った、僕はヘンリを嫌ってはいない。僕は、喩え貴方が存在しようと、貴方を憎む。僕は、彼女が何をリチャドゥ・スマイズに言ったか、僕が、信じることを教えたと、僕は忘れはしなかった。僕の命運に賭けても、僕は如何ようにも口を開くわけにはいかなかっただけでなく、僕が何を投げ出したたかについて考えることも又、僕を自己嫌悪に向かわせた。ヘンリは言った。「今朝、四時に彼女は死んだ。僕はその場にいなかった。看護婦は、間に合うように僕を呼ばなかった。」

 「看護婦は、何処にいるの?」

 「彼女は、彼女の仕事を、非常にきちんとこなし切った。」彼女は、他の緊急事態を受け持ち、昼食前にいなくなった。

 「僕は、貴方に対して、役に立てたら思う。」

 「貴方が、ここに只座っているだけでいい。そりゃあ、大変な日だった、ベンドゥリクス。貴方も知っている、僕は、捌(さば)かなければならない死人を抱えたことはなかった。僕が先に死ぬものと、僕はてっきり思い込んでいた―又、サラーなら何をすべきか知っていただろうにと。もしサラーが、あの長時間、僕の側にいてくれたらなあ。考えようでは、あれは女の仕事だものー赤子を抱いているような。」

201

2022年7月6日水曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

「僕は、分からない、ヘンリ。僕はそうだったと思うが、僕は分からない。」僕たちは、灯りも点けずに、彼の書斎に座っていた。ガス‐火は、互いの顔が十分見える程、強くしてなかった。だから僕が唯一話すことが出来たのは、ヘンリが、彼の声の調子でしくしく泣いた時だけだった。円盤投げ選手が、暗闇から僕たち両者を狙った。「こんなことがどうして起こったのか、僕に話してくれ、ヘンリ。」

 「貴方は、僕が共有地で貴方に会ったあの夜を覚えている?あれは、三週間前、或いは四、だったか?彼女は、酷い風邪をあの夜貰って来た。彼女は、それをどうにかしようともしなかった。僕は、彼女の胸に達したそれを知りもしなかった。彼女はその種のことを、誰彼となく、打ち明けることはない」―そして彼女の日記にさえ、と僕は思った。そこには病気関連の言葉は、全くなかった。彼女は、病気になる機会を持たなかった。

 「彼女は,仕舞に彼女のベドゥに向かった、」とヘンリは言って、「だけど誰も彼女をそこにじっとさせて置くことは出来なかったし、彼女は、医者に掛かろううとしない―彼女は、彼らを信じたことがない。彼女は、一週間前、起きて、外出した。神は、何処へ、又、何故かを知っている。彼女は、彼女には運動が必要だと言っていた。僕の方が先に家に帰り、彼女がいなくなっているのに気付いた。彼女は、九時まで、家に入らなかった。初めての時より酷くずぶ濡れになっていた。彼女は、雨の中を何時間も歩き回っていたに違いなかった。彼女は、一晩中熱に浮かされ、誰かに話し掛けていた、僕が知らない誰か、それは、貴方でも僕でもなかった、ベンドゥリクス。その後、僕は、彼女を医者に診せた。彼は、一週間早く、彼女がペニシリンを受っていたら、彼は、彼女を救えただろうに、と言った。」

200

2022年7月5日火曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

 BOOK FIVE 



僕はヘンリとその夜いた。そういうことは、初めてだった。僕は、ヘンリの家で眠った。彼らは、一部屋ゲストゥ‐ルームを持ち、サラーは、そこに(彼女の咳でヘンリに迷惑を掛けないように、彼女は、一週間前にそこに移った)いた。それで僕は、僕が愛を育んで出来た客⊶間のソウファアで眠った。僕は、その夜、いたくはなかったが、彼は、僕に請うた。

 僕たちは、僕たちの隔たりに、一本半ものフイスキを飲まなければならなかった。僕は、ヘンリが言っていたのを覚えている、「そりゃあ、不思議だ、ベンドゥリクス、人は、死んでしまうと、どれ程も妬んではいられない。彼女が、只、二時間前に死んでるだけなのに、僕は僕の側に貴方を必要とした。」

 「貴方は、嫉妬だと大げさなことを言う程のこともない。そんなことは、随分前に何もかも終わった。」

 「僕は、今、どんな気休めも要らない、ベンドゥリクス。それは、貴方もどちらも終わらない。僕は幸運な男だった。僕は、ずうっとあの年月、彼女を自分のものにした。貴方は、僕を憎みますか?」

199


2022年7月4日月曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳 

 電話が鳴る前に、八日が過ぎた。それは、僕が期待した日時ではなかった。それは朝の九時前だったから。そして、僕が「ハロウ、」と言った時、答えたそれは、ヘンリだった。

 「そちらはベンドゥリクス?」彼は尋ねた。そこには、何か極めて妙な彼の声があり、彼女が彼に話したのか、と僕は動揺した。

 「はい、話しています。」

 「大変なことが起こってしまった。貴方は、知って置いた方がいい。サラーが死んだ。」

 僕たちはこんな瞬間にどう世間並みに振舞ったらいいのか?僕は言った、「実に残念だ、ヘンリ。」

 「貴方は、何か今夜しているの?」

 「いや。」

 「貴方が何とかして飲みにでも来てくれたらなあと思って。一人でいるなんて、想像もつかない。」

198

2022年7月3日日曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

  「人は、知っていますよ、サー。それが、がっかりさせていることです。僕がずっと掴もうとすると、遠のきました。公表されている離婚ケイスの証拠を禁止する法律は、僕の訪問者の男たちには打撃でした。裁判官は、サー、名前で僕たちに触れることはなく、彼は実に頻繁に専門家たちにえこ贔屓します。

 「それは、僕には打撃じゃあなかった、」僕は同情して言った。

 パ―キスでさえ、思慕の念を目覚めさせられた。僕は、サラーの思いなしに、彼を見ることは出来なかった。僕は、仲間への希望を抱いて、地下鉄で帰宅した。鳴り続ける電話の‐ベルの消え入りそうな期待に、寛いで腰を下ろしながら、僕は、僕の連れが、又離れてゆくのを感じた。それは今日ではないだろう。五時に、僕はその番号に電話を掛けたが、僕がベルが鳴る‐音を聞く間もなく、僕は受話器を元に戻した。おそらくヘンリが早く帰って、僕は勝者で、サラーは僕を愛し、サラーは彼と別れたがっている以上、僕は今、ヘンリに話せなかった。

197

2022年7月2日土曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

 「それは、感傷的な値打ちがあるだけ。」彼は囁き返した。

 「貴方の若者は、どうしてる?」

 「少し気難しくて、サー。」

 「僕は、貴方をここで見て驚いている。仕事?本当に、貴方は僕たちの内の一人を、監視してはいないの?」僕は、閲覧‐室の埃を被った収容者―暖を求めて、屋内で少しでも帽子やスカーフを身に付けた男たち、ジョージ・エリオトゥの完備した著作を骨を折って勉強していたインド人、又、同じ山積みの本の側で、横たえた彼の頭を抱えて毎日眠っていた男――性的妬みの戯曲に関心を持つことが出来る男など考えられなかった。

 「オウいえ、サー。これは、仕事ではありません。それは、今日は僕の休みで、若い者は、今日は学校に戻っています。」

 「貴方は、何を読んでいるの?」

 「The Times Law Reportsを、サー。今日、僕はラセル事件に関っています。それは、人の任務に背景のようなものを提供します、サー。展望を開けよ。それらは、日常の取るに足りない詳細から、一つの道を選び取ります。僕は、この事件の目撃者の一人を知っていました。僕たちは前に同じ事務所にいました。ところが、彼は、今や僕が背負い切れない程、歴史に飲み込まれてしまいました。」

196

 「オウ、貴方は全く分かっていない。パ―キス。」

2022年7月1日金曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

僕には彼を喜ばせる意図など微塵もなく、この神も又、サラーの神で、僕は、彼女が愛すものを彼女が信じた、どのような幻であろうと、石を投げる用意はなかった。僕はあの期間、彼女の神を多少なりとも毛嫌いしたことはなかった。だから、僕の方がより強固であると、最後まで証明しなかったのか?

 或る日、何故か決まって譲渡された僕の消えない鉛筆を手にして、僕が僕のサンドゥウイチを食べていると、懐かしい声が、向こう側で、フェロウ研究者への敬意から宥めるような語調で、デスクから僕に挨拶をした。「思いの外、今は、何もかも上手く行っているんですね、サー。もし貴方が個人的侵入を許して下さるなら。」

 忘れもしない口髭を、僕のデスクの背の向こうに見た。「とても上手くいってるよ、パ―キス、ありがとう。認められていないサンドゥウイチを食べる?」

 「オウいえ、サー、私は、とても戴けません・・・」

 「さあ、おいでよ。それは、実費の上乗せだと思ってくれ。」しぶしぶ彼は一つ取り、それを広げながら、まるで彼はコインで、しかもそれが金貨だと分かったかのように、或る種の恐怖と共に目を丸くした。「それは、本場のハムだよ。」

 「僕の出版社が、アメリカから缶詰の缶を僕に送ってくれたんだ。」

 「それは、貴方、とても良かったですね。」

 「僕は、今も灰‐皿を持っているよ、パ―キス。」

僕が囁いたのは、僕の隣人が、腹立たし気に僕を見上げていたから。

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