https://naritaetuko.jp成田悦子の翻訳テキストとちょっとしたこと
悲しみは
折りたたんだ洗濯物の
そのたわいもない折り目にさえ
潜んでいて
クレセンドとデクレセンド
リフレインして
希望の光は
ブラインドの隙間を
ブーメランのよう
行きつ戻りつ
飛ぶ鳥でさえ遮って
デクレセンドばかり
リフレインして
消えてゆく
夢を描いては
雨がそぼ降る田舎道
突然降りた遮断機
潜り抜けもせず飛び越えもせず
ひたすら待つ
単調なメロディリフレインして
魂ごと閉ざされるユクテ
空色に変わって行く
さまよってなんかいちゃ駄目だよって
わたしのいい人が教えてくれた
いい人はわたしの中に住んでいて
わたしの細胞のひとつなんだけど
たとえばこどものころ外は嵐で
空き缶が転がる音や
昼間遊んだ砂場のおままごと道具が
てんでばらばらに散らばった風景
にみょうちくりんなときめきを覚えたように
整理された有様よりでたらめな有様が好き
しあわせな景色よりふしあわせな景色が好き
それをかたちづくる人が好き
かたちづくる人の弱さのそばで
手を握り締めていることが好き
しあわせはわたしには退屈で
脂肪をたくわえた腹部のようで
怠慢でぶよぶよしていて
いのちに実感がなくて
だけど今日はあまりにも
取り乱した後だから
わたしの周りを空にして
わたしはいい人を呼び出して
この小さなお空で鳥のように飛んでみる
2004年8月31日21時16分