2022年4月30日土曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

仮に、時々彼が女を買えば、私は文句を言うの?もし私たちがそこで互いを所有出来なくても、不毛の地にあって、どんなつましい付き合いからも、彼を奪い取りはしない。時に、もし時が来たら、彼は一杯の水さえ拒もうとするに決まっている、と私は思う。彼は、私を、何一つ誰一人傍に寄せず、一人になってしまう、こんな完全な孤立へと追い遣ろうとする。―世捨て人のような、ところが、彼らは一人ではなかったし、又そう彼らは言う。私はそこまで混乱させられる。私たちは、互いに対して何をしようって言うのでしょう?彼が私にしていることを、私は彼に、そっくりそのまま、承知の上でしているから。時には、私たちはとても幸せで、生きている内に、もっと不幸せを思い知るなんてことは、私たちにはなかったわ。それは、まるで私たちが同じ像に関わって、共に働いているかのようだった。互いの居心地の悪さの外側を切り取るばかりで。それにしても私は、そのデザインを知りもしない。


1944・6月17 

 昨日、私は彼と一緒に家に戻り、私たちは何時ものことをした。私は、その荷を下ろす為に神経を用いず、それどころか好んで向かう。何故なら、今書いている間に、時は、既に明日になり、昨日の終わりになることを、私は恐れている。私が書くことを続ける限り、昨日は、今日であり、私たちは未だ一緒にいる。

133

2022年4月29日金曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

もし私が、彼を安心させられさえしたら、それで私たちは、穏やかで、幸福で、無作法でも不摂生でもなく愛せる。そうして不毛の地は、視野から後退する。命ある内は、多分。

 もし人が神を信じられるとしたら、彼は不毛の地を満たそうとするか?

 私は、何時も良く思われ、褒められたがった。例えば一人の男が、私の方を振り向けば、例えば一人の友だちを失えば、私は酷い危険を感じる。私は夫を手放せもしない。私は全てが、全ての時が、何処も彼処(かしこ)も欲しい。私は、不毛が怖い。神は貴方を愛し、彼らは教会で、神が全てです、と言う。賞賛を必要としないということを信じる人々、彼女たちは男と一緒に眠ることを必要とせず、彼女たちは安心感を得る。しかし、私は信用をでっち上げられない。

 丸一日、モーリスは、私に思いやりを見せた。彼は、私にしょっちゅう他の女をこんなにも愛したことはない、と私に話す。彼は、そう頻繁に口にすることで、彼は、私にそれを信じ込ませようとする。何れにせよ、私が単純にそう信じるのは、丁度同じように、私は彼を愛すから。もし私が彼を愛すのを止めたら、私は、彼の愛情を信じるのを止めようとする。もし私が神を愛したら、私への彼の人の愛を信じようとする。それを必要としても、それでは十分ではない。私たちは、先ず愛さなければならないのに、どうしていいか分からない。それでも、私はそれを必要とする、どれ程、それなしでいられない。

 終日、彼は優しかった。只一度だけ、一人の男の名前が気になり、私は、彼の眼差しがあらぬ方向に動いたのを見た。私が他の男と未だに眠る、と彼は思い、そしてもしそうしたら、それは、それ程重大なことだろうか?

132

2022年4月28日木曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

 それから、僕は初めから帳面に取り掛かった。彼女は、毎日、日記に記入していなかったし、僕は、全ての記載を読もうとは思わなかった。彼女がヘンリと一緒に行く芝居、レスタラントゥ、パーティ―僕が何も知らないその暮らしの全ては、未だに傷付ける力を持っていた。



1944・6月12


 時に、私は彼を愛しているし、永遠に彼を愛す、と彼を納得させようとすると、本当に疲れ果ててしまう。彼は、法廷弁護士のように私の言葉を攻撃し、それを曲解する。もし私たちの恋が終われば、彼の周りを囲むに違いないその不毛を、彼は恐れている、と私には分かる。それなのに、私が丁度同じように感じていても、彼は理解しようとしない。彼が声を出して何を言っても、私は黙って私自身に言い聞かせ、そのことをここに書く。一人では、不毛の地に何も築くことは出来ないのか?時に、私たちが何度も愛を育んだ一日の後、私は、性の終わりに至る、それが可能かどうか危ぶむ。彼も又、訝しく思い、不毛が生じるその地点を恐れている。もしも私たちが互いを見失えば、その不毛の地に居て、何をするのか?一人で、その後どうして生き続けるのか?

 彼は、過去や現在や未来を嫉妬する。彼の愛は、中世の純潔ベルトゥに似ている。彼は、私と一緒にそこにいて、私に包まれている時だけ、彼は何とか安心する。

131

2022年4月27日水曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

 1946・2月12日

 二日前、私はあれ程の平穏と静けさと慈しみの感覚を持った。暮らしは、又幸せの方向に向かっている。しかし昨夜、最上階でモーリスに会うために、階段を上っている夢を見た。私が階段の最上階に着いた時、私たちは愛を育むことにしていたので、私はまだ幸せだった。私が来たと彼に呼び掛けたが、答えたそれは、モーリスの声ではなかった。道に迷った船に警告する霧笛のように、大声で伝え、私を怯えさせたのは、見知らぬ人のそれだった。私は考えた、彼は、彼のフラトゥを貸していなくなってしまった。彼が何処にいるのか、私は知らない。そして又階段を降りようとすると、私の腰より水位が上がり、ホールは、霧でどんよりしていた。その時、私は目覚めた。。私は、もう内心穏やかではなかった。私は只、過ぎた日に何時もそうであったように、彼が欲しい。私は、彼と一緒にサンドゥウイチを食べていたい。私は、バーで彼と一緒に飲んでいたい。私は疲れ、私はもう何の苦しみも欲しくない。私は、モーリスが欲しい。私は、普通の堕落した人間の愛情が欲しい。親愛なる神よ、私は貴方の苦しみを貰いたいのですが、今は、それが欲しくはありません。暫くそれを持ち去って、他の時にそれを与えて下さい。

130

2022年4月26日火曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

 BOOK THREE

・・・何もかも通り過ぎる、そうして私たちは終わってしまった。貴方(神)以外は。私たちのどちらかの所為ね。私は、ひと時、ささやかな恋心を、費やしながら、それを、こちらへ又あちらへと外へ向かって、この男そしてあの上へと手を伸ばしながら、命ある時を夢中で過ごしたのかも知れない。けれども初めての時でさえ、パディントンに程近いホテルで、私たちは、私たちに備わる全てを出し尽くした。貴方(神)が裕福な人に教えるように、私たちに浪費することを教えようとして、貴方(神)は、そこにいた。その結果、或る日、私たちには、この貴方(神)という愛以外、何も残っていなくてもよかったのに。何れにせよ、私には貴方(神)は立派過ぎた。私が苦痛の為に、貴方(神)を頼みにすると、貴方(神)は、私に安らぎを下さった。それを彼にも上げて下さい。彼に私の安らぎを上げて下さい―彼はそれをもっと必要としています。

129

2022年4月25日月曜日

The End of the Affair/ Graham Greene 成田悦子訳

僕はこれを、或る事件の記録として取り扱いたかった―パ―キスの事件の一つ―取り扱われるべきだったが、僕はそれ程の冷静さを持ち合わせていなかった。何故なら、僕が日記を開いた時、僕が気付いたことは、僕が期待していたものではなかったから。嫌悪と疑いと嫉妬は、僕を遥か彼方へ駆り立てて来た。僕は、見知らぬ人からの愛の告白のように、彼女の言葉を読んだ。僕は、彼女に対して、多くの根拠を求めて来た―随分頻繁に、彼女を嘘の中に追い詰めたのではなかったか?―そして今ここに、僕が彼女の声を信じられなかった時、信じることが出来た記述の中に、その完全な答えがあった。それは、最後の二頁にあったから、僕は、先ず読んだ、そして確かめるために、終わりにもう一度読んだ。愛すべき親や神以外、誰かに対して貴方の中に、何もないと分かっている時、貴方が愛されるということを発見することも、信じることも、それは、不思議なことです。

128

2022年4月24日日曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

 「それは、全て人間の本質で、サー、人間の愛情ですよね。それに広くも、高級でもないその部屋。パ―キス婦人は、あの頃存命中でしたが、私は、彼女に詳細を話すのは、気乗りしなかったんです。彼女は、事によったら邪魔になりました。」

 「僕は必ず記念品を大事にしますよ。」 

 「もしも灰‐皿が話せたら、サー。」

 「本当に、そうだね。」

 何れにせよ感銘深い思いを持ったパーキスでさえ、すっかり言葉尽きた。その手の最期の圧迫、少々べとべとした(おそらくそれは、ランスの手に触れて来たから)、そして彼は行ってしまった。彼は、誰かが又会いたくなる、そういう人の一人ではなかった。やっと僕は、サラーの日記を開いた。僕は、全てが終わった1944六月のその日を探そう、と先ず思った。そして僕はその理由を見付けた後で、そこには、他の日付がたくさんあるから、僕は僕の日記とそれらを見比べながら、正確にそこから学べたらいい、どのように、彼女の愛は尽きたのか。 

127

2022年4月23日土曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

 「それにしても、貴方が本当に記念品を憤慨しないのであれば、サー・・・」

 「勿論僕はそうしない、パ―キス。」

 「私は、ここに或る物を持っています、サー、それには、関心と有用性があるのかも知れません。」薄用紙に包まれた物を、彼はポキトゥから取り出し、それを僕の方へと、気遣いながら机を横切って滑らせた。僕は、それを開いた。それは、ホテル・メトゥロポウル、ブライトゥリングスィー、と記された安価な灰‐皿だった。「そこには実際、それに纏(まつ)わる或る由来があります、サー。貴方はボルトン事件を覚えていますね。」

 「僕は覚えていると迄は、言えない。」

 「それは大騒ぎになりました、サー、その当時。レイディ・ボルトン、彼女のメイドゥとその愛人、サー。皆、同時に見つかりました。その灰皿は、ベドゥの傍らに位置していました。レイディの脇腹の上に。」

 「貴方は、実に小さな博物館を集めなければならなかった。」

 「私はそれをサヴィジ氏に上げようとしました―彼は殊更に、関心を持ちました―しかし私は今、晴れ晴れとしています、サー、私はそうしなかった。私は、貴方が署名を見つけるだろうと思います。貴方の友人が、彼らの煙草を消す時、噂話を思い出すでしょうが、そこに貴方の解答の一塊があります―ボルトン・ケイス。彼らは皆それについてもっと聞きたいでしょう。

 「それは、人騒がせな感じだ。」

126


2022年4月22日金曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

 僕は、パ―キスの結末を見たいということは、かなり自覚していたし、彼の言葉は、僕の罪悪感を目覚めさせた。僕はその男を急いで立ち去らせることが出来なかった。彼は言った。「私は考えていました、サー、私は貴方にささやかな記念品を差し上げるつもりです―しかし、それは正(まさ)しく、貴方が受け取りたくないものです。」欲しがられるとしたら、どんなに不思議だろう。それは自動的に確かな忠誠を喚起する。そこで僕はパ―キスに嘘を吐いた。「僕は何時も僕たちの会話を満喫しました。」

 「何れにしても、サー、大変不運な中での始まりでした。あの馬鹿げた間違いもあり。」

 「貴方は、もう貴方の若者に話しましたか?」

 「はい、サー、が只、何日かして、紙屑籠での成功の後に。それが、棘を取り去りました。」

 僕は帳面を見下ろして、読んだ。「とても幸せ。Mが明日戻る。」僕は、一瞬。Mが誰か思い巡らした。誰かが愛された、と思うと、どんなにか妙でもあり、不慣れでもあった。誰かの存在は、一度は、他の誰かの一日に、幸福と単調の間の相違を作ろうとする力を持ってはいた。

125

2022年4月21日木曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

 「私は、貴方が満足されたらと願っています、サー。」

 「実に満足。」

 「それでそのことを、貴方はサヴィジ氏にその通りに書くでしょう、サー。彼は依頼者から酷い報告書を受取りますが、良いものは、なかなか書いて頂けません。依頼者は、満足すればするほど、彼は忘れ、私たちを直ぐにでも心の外に追い遣ろうとします。貴方は、彼らを先ず咎めようがない。」

 「僕は、書くつもりです。」

 「ええ、ありがとうございます、サー、若い者に優しくして頂きました。彼は、少しばかり取り乱しましたが、私にはそれがどうしてか分かります―ランスのような若造に対して、アイスに限度を設けるのは難しい。彼は、苦労して貴方からそういうものを頂いている、と一言、言いました。」僕は無性に読みたかったが、パ―キスは手間取った。おそらく彼は、彼を覚えていようとする僕を、実際は信用していなかったし、僕の記憶に、そのしょげた眼差しや、あのけちな口髭を印象付けたかった。「私は、私たちの付き合いを満喫致しました、サー―もし、嘆かわしい次第にも拘らず、楽しみにしていたことを話させて頂けるなら。私たちは必ずしも、彼らが称号を持つ場合でさえ、真の紳士の為に働くとは限りません。

124

2022年4月20日水曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

「そこに人間の本質が潜んでいます、サー、貴方が日記を取って置くのは、貴方が、物事を思い出したいから。そうでなければ、何故それを取って置きます?」

 「貴方はこれを見たの?」僕は尋ねた。

 「私はその本質を確かめました、サー、それで、一つの記載から、彼女は慎重なタイプではない、と判断しました。」

 「それは今年のものではないね。」僕は言った。「それは、二年も前のものです。」一瞬、彼は落胆させられた。

 「それは僕の目的に適いますよ。」僕は言った。

 「それは都合良く妙技をするに決まっています、サ―,もし何一つ償われなかったら。」

 その日誌は、大判の会計簿に記載され、くだけた肉太の筆跡が、赤と青の線で横線を引いてあった。そこに日記の記載はなかったので、僕はパ―キスを安心させられた―「それは、何年もに亘っています。」

 「何かが読むために、彼女にそれを外に持ち出させなければならなかった、と私は推測します。」それは可能か、僕はあれこれ思い巡らした。僕に関する、僕の出来事に関する或る記憶が、この当日、彼女の心を横切り、その何事かが、彼女の平和を乱したのかも知れない。僕はパ―キスに言った。「僕はこれを手に出来て嬉しい、実に嬉しい。貴方には分かるでしょう、僕たちは、今やっと、僕たちの勘定を締められる、と僕は心底思う。」

123

2022年4月19日火曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

 Ⅷ

パ―キスは言った。「それはもう実に簡単でした、サー。そこにはこんな混乱がありました。マイルズ婦人は、私が省出身の彼の友人の一人だと思い、マイルズ氏は、私が彼女の友人の一人だと思いました。」

 「それは素晴らしいカクテイル・パーティでしたか?」あの最初の出会いと、知らない人と一緒のサラーの観察を再び思い出しながら、僕は尋ねた。

 「高い成果と、私は言うべきでしょう、サー、それにしてもマイルズ婦人は、少し場違いなように思われました。酷くしつこい咳を、彼女はしていました。」僕は、満足して彼の話を聞いた。多分、このパーティでは、小部屋のキスも又触れることもなかった。彼は茶色い紙包みを僕の机にのせ、自信を持って言った。「私はメイドゥ経由で、彼女の部屋への道を知りました。もし誰かが私に気付いたら、私はトイリトゥを探していたことにしようとしたのですが、誰一人気付かなかった。そこにそれが、彼女の机の上に出してありました。彼女はその日、その上で作業をしなければならなかったのです。勿論、彼女は非常に慎重であるかも知れません。しかし私の日記の経験では、そうした物は、決まって物事をばらすのです。人々はそのささやかな符号を考案しますが、貴方は直ぐにそれらを見破ります、サー。又それは物事を省きますが、貴方は何を省いたかを直ぐに学びます。」彼が話している間に、僕は帳面を出して、それを広げた。

122

2022年4月18日月曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

 再び彼は拒絶された愛人のように、欲求不満の柔軟さの素振りを見せた。如何に数知れぬ臨終の‐床から彼は締め出されて来たか、僕は突然ぞっとした。僕も又、彼に何らかの希望のメシジを捧げたい、と思うに至った、が、その時だ、頬の向きが変わり、僕は単に尊大な演技者の表情を見たに過ぎない。彼が不憫で、不適格で、時代遅れに成り果てた時、僕は好ましく思った。アイア、ラスル―彼らは今日流行(はやり)ではあるが、僕は彼の書庫そこに多くの論理的実証主義者がいたかどうかどうか疑った。彼は単に十字軍戦士に肖っただけで独立したものではない。

 玄関先で、―僕は彼が危うい専門用語グドゥ‐バイを遣わなかったということに気付いた―僕は迷わず彼の美しい頬を一突きした。「貴方は僕の友人、マイルズ婦人に会うべきだ。彼女は興味深い・・・」そこで僕は止めた。その一突きは、まともにあたった。痣がより濃い赤に染まったようで、僕は、彼が不意に顔を背けると同時に、ミス・スマイズが「オウ、私の愛しい人が。」と言ったのを聞いた。そこには、僕が彼に痛みを与えたことに疑いの余地はなく、とはいうものの痛みは彼同様僕にもあった。僕の一突きが、外れていたらとどれだけ思ったことか。

 外の排水路で、パ―キスの若者は気分が悪くなった。僕は彼を吐かせた。訳も分からずそこに立ったまま、彼も又、彼女に夢中だったのか?これに対する結末は、そこにはないのか?僕は今、Yを発見することに苛立ったのか?

121

2022年4月17日日曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

将来の埋め合わせ、報奨、処罰も何にもない。」片方の頬が隠れると、彼の顔には狂った気品が加わった。

「それから僕たちは天国のようなこの世を作り始めます。」

 「そこには最初に説明されるべき恐ろしい運命があります。」と僕は言った。

 「僕は貴方に僕の蔵書を見せてもいいのですが?」

 「それは、南ランダンで最高の合理主義者の蔵書です。」ミス・スマイズは説明した。

 「僕は改宗する必要はありません、スマイズさん。僕はそれがあるからといって、何一つ信じません。今も今後も例外なく。」

 「それは、今も今後もずっと、僕たちは対処しなければならない。」

 「奇妙なことは、それらが希望の時になるということです。」

 「誇りは、希望のふりをすることができる。又、自己本位も。」

 「それには、何かに付け、それを用いて何か果たすべきことがある、と僕は思わない。それは突然降りかかる、分けもなく、或る匂いが・・・」

 「アー。」スマイズは言った。「花の構造、ディザインからの論拠、時計屋を必要とする時計に関するあらゆるその仕事。それは、古風だ。シュヴアイゲンは、二十五年前全てを答えた。僕に貴方を案内させてください・・・」

 「今日は駄目。僕は、本当に、あの子を家に連れて帰らなければいけない。」

120

2022年4月16日土曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

 「貴方には孫がいるんですか?」

 彼は憂鬱そうに言った。「僕には子供はいません。僕は、子供のいる貴方が羨ましい。それは。重い義務と重い責任がある。」

 「貴方は彼に何を聞きたかったんですか?」

 「僕は彼にここでくつろいで欲しかった。その後戻ってもかまわないから。そこにある非常に多くのことを、子供に話したい人がいます。世界は、どのように存在に至ったのか。僕は、彼に死について話したかった。僕は、学校で彼らが入れ込む嘘の全てから、彼を救い出したかった。」

 「三十分でしてしまうには、かなり多い。」

 「誰でも一粒の種を撒けます。」

 僕は、悪意を持って言った。「それは福音書の引用ですね。」

 「オウ、僕も又堕落してしまった。貴方はそんなことを僕にどうしても言わなければならないことではない。」

 「人々は、実際、貴方の所に来るんですか―閑静に便乗して?」

 「貴方は驚くでしょ。」ミス・スマイズは言った。 「人々は希望のメシジを待ち焦がれています。」

 「希望?」スマイズは言った。「喩え、この世の誰もが、僕たちがここにあるもの以外、他に何一つないと気付いても、そこにあるに違いないどんな希望も、貴方には見えないのですか?」

119

2022年4月15日金曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

一瞬、僕は彼女から解放された。若者が言った。「僕は吐き気がする。僕はもう一杯オリンジエイドゥを飲んでもいい。」

 ミス・スマイズは言った。「いい子だから、飲まない方がいいと思うわ。」

 「本当に、僕は彼を連れて行かなければなりません。その方がきっと貴方がたのためになるでしょう。」

僕は痣が十分に視界に留まるようにした。僕は言った。「僕は、大変申し訳なく思います。もし僕が何かに付け、貴方がたに嫌な思いをさせたのなら。それは全く不測の事態で。僕は、たまたま貴方がたの信仰を共有しません。」

 彼は驚いて僕を見た。「ですが、僕は何も持ちません。僕は何ものも信じません。」

 「僕は、貴方が不服なのではと思い・・・」

 「僕は、居残って計略に嵌るのは嫌です。僕を放免して下さい。僕は余りにも懸け離れてしまっている、ブリジスさん、僕は分かります、しかし僕は、時々心配になります。というのは、人々は典型的な言葉によってでさえ思い出すのではないかと―例えばグドゥ‐バイ。例えば僕の孫は、神のような言葉が、スワヒリの言葉よりもっと僕たちには、重要であると、知ろうとさえしなということを信じられたら。」

 「貴方には孫がいるんですか?」

118

2022年4月14日木曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

 「もし貴方が望むのでしたら、帰っていいんです、当然。しかし若者をここに残して頂けませんか?―30分だけなら?僕は彼に話したい。」彼はパ―キスの助手に見覚えがあり、彼に詰問するつもりだということが僕の身に振りかかった。

僕は言った。「何か貴方が彼に尋ねたいことがあれば、貴方は僕に尋ねていいんですよ。」どんな時も、彼は僕の方へ、彼の痣のない頬を向けた。僕の怒りは、込み上げた。どんな時も、僕はそれが消えた醜い黄色い頬を見た。僕は信じられなかった。―紅茶を入れるミス・スマイズと一緒の、花柄のクレトン更紗の間のここで、性欲が存在するということが信じられない以上に。しかし落胆は、何時も答えを生み出し、落胆は今僕に尋ねた。それは愛で欲望ではない、と貴方はそんなにも評価したいか?

 「貴方と僕は、年を取り過ぎた。」彼は言った。「それでも、校長や聖職者―彼らは、丁度、自らの嘘で彼らを堕落させ始めたばかりだった。」

「貴方が意味する地獄とは何か、僕には分からない。」僕は言って、急いで付け加えた。「すみません。」スマイズに向かって。

 「そこに貴方はいるし、貴方は見ている。」彼は言った。「地獄、そしてもし僕が貴方を怒ったら,同じように、貴方はマイ・ガドゥと言おうともしない。」

 僕は彼に衝撃を与えたような気がした。彼は非国教徒牧師かも知れなかった。彼は日曜日の度に働く、とミス・スマイズは言った。それにしても、サラーの恋人であるような、そんな一人の男を如何にこっ酷く傷付けよう。突如としてそれは、彼女の重要性を削いだ。彼女の愛の出来事は、悪ふざけになった、彼女は彼女自身、僕の次のディナ・パーティで、コミクの逸話として使われるかも知れない。

117

2022年4月13日水曜日

The End of the Affair/ Graham Greene 成田悦子訳

そして僕は彼の頬の剝き出しの痣をまじまじと見ながら考えた、そこには何処にも、無傷なところはなかった。一つの盛り上がり、一つの不具で、それらは皆、恋を始めさせる引き金を持っている。

 「貴方の来訪の本当の目的は何ですか?」彼は突然僕の思いの中に押し入った。

 「僕は、ミス・スマイズに話しました―ウィルスンという方を・・・」

 「僕は貴方の顔を覚えていませんが、貴方の息子さんのは覚えています。」まるで彼が若者の手に触れたかったかのように、彼はつっけんどんな欲求不満の素振りを見せた。彼の眼差しは、或る種、型に嵌らない優しさを湛えていた。彼は言った。「貴方は、僕を恐れることなどない。僕はここに人々が訪れることには慣れています。僕は貴方に保証します、僕は只、役に立ちたいだけ。」

 ミス・スマイズは、説明した。「何方でもよく後退(あとじさ)りなさいます。」僕の人生では、それは、何事に関しても、全てだったと思えなかった。

 「僕は丁度ウィルスンという人を捜していました。」

 「そんな男は其処にはいないと僕が知っているのを、貴方はご存知です。」

 「もし貴方が電話帳を貸して下されば、僕は彼の住所を調べられるのですが・・・」

 「もう一度、腰掛けて。」彼は言い、陰気げに若者のことをじっと考え込んだ。

 「僕は、お暇(いとま)しなければなりません。アーサの具合も良くなり、それにウィルスン・・・」彼の曖昧さは、僕を容易く意地悪にした。

116

2022年4月12日火曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

それからラムプの灯かりの中に歩み寄った。彼の左頬を覆った重症の青黒い痣(あざ)は、凡そ非凡の焼き印と見紛(みまが)うばかりだった。―僕は彼に敵意を持って来たものの、彼は、どんな鏡で自分を見たところで、露ほども慢心する筈がない。

 ミス・スマイズは言った。「私の兄弟は、リチャドゥ。ブリジス氏。ブリジスさんのお子さんの具合が良くないの。私がこの人たちに、入るようお願いしたの。」

 若者を見やりながら、彼は握手した。僕は彼の手の渇きと熱に気が行った。彼は言った。「僕は、以前貴方のとこの若者を見掛けました。」

 「共有地で?」

 「おそらく。」

 彼は部屋のわりに、余りにも力強かった。クレトン更紗とは、釣り合いがとれない。彼の妹が、ここに座るのか、それにしても彼らは、他の部屋で…或いは、彼らが愛を育む間、彼女を使いに出すのか? 

 ところで、僕はその男を見ていた。そこには留まりたいものは微塵もなかった。何故なら―今、彼の出現によって放免された様々な疑問の全てを除いたから―何処で彼らは出会ったのか?彼女が初め主導したのか?彼女は彼の中に何を見たのか?如何に長く、如何に頻繁に、あの二人は愛人関係にあったのか?そこには、僕が魂によって身に付けた彼女が書いた言葉があった。「貴方に書く或いは貴方に話す必要が何もなくなった。・・・私は恋し始めているだけ、と知っています。それにもかかわらずもう、私は、貴方を除いた全ての物と人を捨てたい。」

115

2022年4月11日月曜日

the End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

 「いえ。」彼女は言った。「リチャドゥ。お子さんの具合は、どうです?」

 「最悪。」パーキスの養子は言った。

 「私たちは彼の体温を測った方がいい、と貴方は思います?」

 「僕にもう一杯オリンジ‐スクワシュを頂けますか?」

 「それは何んともなきゃ、いいのよ。」ミス・スマイズは、途惑った。「可愛そうなお子さん、。多分、彼は、熱があるのね。」

 「僕たちは、十分貴女の邪魔をして来ました。」

 「私の兄弟は、もし貴方がたに居て頂けなければ、私を許しはしません。彼は、とても子供が好きなんです。」

 「貴女の兄弟は、中にいらっしゃいますか?」

 「私は彼が今来るか来るかと期待しています。」

 「仕事から帰宅を?」

 「そうですねえ、彼の働いている日は、正直申しまして日曜日です。」

 「牧師?」僕は敵意を隠し持って尋ねると、途惑っている答え「正確には違います。」を受取った。懸念の様相が、僕たちの間に、カートゥンのように降りて来て、彼女の個人的な悩みと共に、彼女はその背後に退いた。彼女が立ち上がると同時に、玄関ホール・ドアが開き、そこにXはいた。ホールの暗がりの中、ハンサムな俳優の顔を持つ男という印象を得た―しょっちゅう鏡の中でそれそのものを見ているという顔も又、低俗の趣、すると僕は、悲しく、満足とは無縁で、あの女はもっといい好みをしていたらなあ、と思った。

114 


2022年4月10日日曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

 「彼の名前は、アーサですか?」

 「アーサ・ジェイムス。」僕は言った。

 「それはかなり古典的な名前ですね。」

 「僕たちは古風な家族です。彼の母親は、テニスンが好きでした。」

 「その方が、ですか・・・?」

 「はい、僕が言うと、彼女は憐れみを持って、その子供を見た。

 「彼は、貴方には慰めでしょうね。」

 「それに心配の種。」僕は言った。僕は羞恥心を感じ始めた。彼女はそんなに疑わなかった。それで、僕はここでどんな良いことをしていたのか?僕はXに会うことに、少しも近付けなかった。ベドゥの上の男に、顔を提供することの代償として、少しでも幸せになるつもりか?僕は僕の戦術を修正した。僕は言った。「僕は、自分のことを紹介した方がいいようです。「僕の名前は、ブリジスです。」

 「そうしますと、私の方は、スマイズです。」

 「僕は、前に何処かで貴女に会ったような気がしてなりません。」

 「私は、そう思いません。私は、顔のことは大変よく覚えています。」 

 「多分僕は、貴女を共有地で見掛けたことがあります。」

 「私は私の兄弟と一緒に、時々そこへ行きます。」

 「見込み違いでなければ、ジョン・スマイズですか?」 

113

2022年4月9日土曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

 「彼を中に来させて、座らせて上げなさい。」ミス・スマイズは言った。

 「それは大変ご親切なことで。」

 サラーは、どれだけ頻繁に、このドアを通って、狭く散らかったホールへと消えたのだろう、と嘆かわしく思った。ここ、Xの家の中に僕はいた。多分、フックの茶色いソフトゥ帽は、彼のものだ。僕の後釜の指―サラーに触れ―今開けたこのドアの取手を毎日回した指。雪で鉛色の午後を通して燃えているガスーストウヴの黄色い炎に、ピンクの傘の付いたラムプに、クレトン更紗の緩めのカヴァの屑綿に。「私は、貴方の可愛らしい少年に、水の一杯でも取って来てもいいのですが?」

 「それは大変ご親切なことで。」僕はさっきそう言ったのを思い出した。

 「それともオリンジ‐スクワシュなんかは。」

 「君は悩まなくていいから。」

 「オリンジ‐スクワシュ」若者は、断然言った。又間を置いて「どうか」、彼女がドアを通って行く時。とうとう僕たちだけになり、彼を見た。彼は、クレトン更紗の上で、背中を曲げながら実に具合が悪そうに装った。もし彼が僕にウインクをしなかったら、僕は、多分、かどうか不可解に思った・・・ミス・スマイズがオリンジ‐スクワシュを運んで、戻って来た。そこで僕は言った。「ありがとうと言いなさい、アーサ。」

112

2022年4月8日金曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

それから僕たちは父と息子のように手に手を取って、共有地を横切り、シダ―・ロウドゥへ向かった。サラーと僕には、どちらにも子供がいない。強い欲望や嫉妬やパーキスの報告書といった、こそこそした職業の中より、結婚することや、子供を持つことや、甘ったるく退屈な平和の内に、共に静かに暮らすことの中、そこにはもっと生(せい)の感覚が在ったのではないだろうか?

 僕はシダ―・ロウドゥの最上階でベルを鳴らした。僕は若者に言った。「覚えて置くんだよ。君は具合が悪い。」

 「もしその人達が、僕にアイスをくれたら・・・」彼は始めた。パ―キスは、予め備えるよう訓練して来た。

 「その人たちは、くれないに決まってる。」

 僕は、ドアを開けたのは、ミス・スマイズだと思った。―チャラティ・バザーの灰色でくたびれた髪の中年婦人。僕は言った。「ウィルソン氏は、ここに住んでいらっしゃいますか?」

 「いえ、御免なさい。」

 「仮に、彼が下のフラトにいても、たまたま貴方がご存じないのでは?」

 「この家に、ウィルソンという名の者はいません。」

 「オゥ親切な方。」僕は言った。「私は、はるばる若者を連れて参りましたが、今しがた、彼は具合が悪くなりました・・・」

 僕は若者を見ないようにしたが、通路からミス・スマイズは、彼をじっと見ていた。彼は静かに、効果的に彼の役割を果たした。サヴィジ氏は彼のチームのメムバとして、彼を認めることを自慢しただろう。

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2022年4月7日木曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

 「それは、ガラハドだよ。ランスロトゥは、グイネヴェレとベドゥの中で見付けられた。」何故僕たちは、無知をからかいたがる悪癖を隠し持つのか?つまり妬(ねた)みなのか?パーキスさんは、悲し気に言った。彼を裏切ったかのように、彼の若い者を横目で見ながら、「僕は 聞いたことがなくて。」



翌日―彼の養父に意地悪をしたくなって―僕たちがシダー・ロウドゥに出かける前に、僕は、ハイ・ストゥリートゥで若者にアイスを御馳走した。ヘンリ・マイルズはカクテイル・パーティを開いている―そうパ―キスさんは、報告して来たので、リスクは避けられた。彼の衣服を真っ直ぐにグイっと引っ張ってから、彼は若者を僕に預けた。若者は、顧客と一緒の彼の初舞台のお目見えという光栄に則(のっと)った彼の一張羅でめかし込んでいた。それなのに僕は、僕の最もみすぼらしいのを身に着けていた。苺アイスが少々、彼のスプーンから零(こぼ)れ、彼のスーツにしみを作った。僕は、最後の一滴が飲み干されるまで、黙って座っていた。間を入れず僕は言った。「もう一杯?」彼は頷(うなず)いた。「又、苺?」

 彼は言った。「ヴァニラを。」かなり経ってから付け加えた。「どうか。」

 彼は二杯目のアイスを随分ゆっくりと、指紋を除去するかのように、念入りにスプーンを舐めながら食べた。

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2022年4月6日水曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

 「僕は貴方と同感です、サー。それは僕だって避けて通ることです。その時が迫れば、僕は若い者にも、それを避けるようにして貰います。」彼の悲しげな眼差しは、彼の若い者が見せるあらゆる動きを追った。「彼はアイスを欲しがったのです、サー、僕は駄目だと言いました、こんな天気でなければな。」すると彼は、アイスへの思いが彼を凍らせたかのように少し震えた。瞬間、彼が「専門家というものは、その尊厳を身に着けていらっしゃいます、サー。」と彼が言った時、彼の意味するところが,僕には何だか分からなかった。 

 僕は言った。「貴方の若者を、僕に貸してくれますか?」

 「もし貴方が、その場で、不愉快になることはない、と僕に保証して下さるのなら。」彼は不安そうに言った。 

 「僕はマイルズ婦人がそこにいる時は、立ち寄りたくないんです。この場面では、万人に通じる資格を手に入れるだろう。」

 「しかし、何故若い者を?」

 「僕は、彼が具合が悪いようで、と言うつもりです。僕たちは間違った住所に来てしまいました。彼らは暫く彼を休ませざるを得ないでしょう。」

 「そういうことなら、この若い者の能力の範疇です。」パ―キスさんは自信ありげに言った。「それに誰もランスに抵抗できません。」

 「彼はランスと呼ばれてるんだね?」

 「サー・ランスロットゥに肖(あやか)りまして、サー。Of the Round Table(円卓の)。」

 「驚いたね。確か、あれは、かなり不愉快なエピソウドゥだった。」

 「彼は、聖杯を見つけました。」パーキスさんは言った。

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2022年4月5日火曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

 「僕はベルを鳴らして、直接歩いて中に入り、傷付いた夫のように彼を慰めましょうか?」僕はパーキスさんに尋ねた(彼は、約束してA.B.C.で僕に会っていた―それは彼が彼と行動を共にする若者を使っているという彼独特の暗示で、彼をバーに連れて入ることは出来なかった。)

「僕はそれに反対です、サー。」パーキスさんは、彼のティーにスプーン三杯の砂糖を加えながら言った。彼の若者は、聞こえないテイブルに、オリンジエイドゥとロウルパンと一緒に座った。彼は、入って来た誰も彼も観察した。彼らは、彼らの帽子やコウトゥから、その薄い湿り気の多い雪を振り落した。まるで彼は後で報告書を作ることにしているかのように、その抜け目のない、茶色のビードゥのような目をして、凝視した―おそらく彼はパーキスの訓練の断片を、持ち合わせていた。「御存知でしょう、サー。」「パーキスさんは言った。「貴方が快く証拠を提供しなければ、法廷内で事を複雑にします。」

 「それが、法廷に届くことはない。」

 「平和的な決着を?」

 「興味の欠如。」僕は言った。「誰も、スマイズという名の男のことで、まともに騒ぎ立てたりする筈がない。僕は何とか彼に会いたいんだ。以上。」

 「最も安全な方法は、サー、計量器検査人ですよ。」

 「僕が、ひさし付きの帽子で仮装する筈がない。」

108

2022年4月4日月曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

やっとそこに恋の最期があるように、憎しみの最期がある。六か月後、僕は一日一杯サラーのことを思わず、そしてそれで僕は幸せだと悟った。それでも、完全に憎悪の最期は、訪れようがなかった。何故なら、一度、出来れば絵葉書を買い、歓喜に満ちたメシジをその上に書きたくなって、文房具店に僕は入ったから―誰に分かる?―時々刻々の痛み、ところが、その時までに僕は彼女の住所を書いてしまっていた。僕は傷付けたいという渇望を見失い、道路に葉書を落とした。それは不思議だった、憎しみはヘンリとのその邂逅で、再び息を吹き返そうとしていた。僕はパーキスさんの次のリポートゥを開くに連れ、愛情も又それだけでそんな風に息を吹き返せるものかどうか、思いあぐねたのをおぼえている。

 パーキスさんは、彼の仕事を首尾よく終えたー粉は効き、フラトゥは突き止められた―シダ―・ロウドゥ16の最上フラトゥ。占有者、ミス・スマイズと兄弟リチャードゥ。ミス・スマイズは、ヘンリが夫であると同程度に、姉妹として便利だったかどうか、僕は不可解に思った。そして僕の隠れた俗物根性は、その名前によって呼び覚まされた―そのy、末尾のe。僕は シダー・ロウドゥの中で、彼女はスマイズと同じくらい卑しいものになったのか?彼は、この二年で、愛人の長い鎖の端っこになったのか、或いは、僕が彼を見た時(そしてパーキスさんの報告書の中でという程、曖昧にではなく、僕は、彼を見ることを決定付けられていた)、1944六月に、誰かの所為で、彼女は僕を捨てたのに、僕はその男を見ようとしているのか?

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2022年4月3日日曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

 終に、万事に付け最悪の結末となった。想像することやイミジを心に描くことは僕の専門だ。一日中五十回、それに差し当たり僕は夜の間起きていた。カートゥンは上がったままで、その演目は始まるのだった。何時も同じ演目、恋するサラー、Xと一緒のサラー、僕たちが揃ってして来たのと同じことをしている、彼女自身の特別な遣り方でキスをするサラー、セクスの中で彼女自身を弓形に曲げ、苦痛に似たその呻き声を発しながら、自暴自棄のサラー。僕は直ぐに眠れるように、夜にピルを飲むことにしている。しかし、昼間迄僕を眠らせてくれるピルが、僕にはどうしても見つからない。自動装置だけが、日中の気晴らしだった。静寂と轟の間の数秒間、僕の心は、サラーから解放された。三週間が過ぎ、イミジは、初めと同様に、明瞭で常習的で、そこでは、彼らはずっと終わる気が全くないように見えた。そうして僕は、自殺について、実に真剣に考え始めた。そこで僕は、殆ど希望の感覚と言っても良いものと一緒に、僕の睡眠薬を取って置いた。僕は結局、このように無期限に続ける必要はない。僕は自分自身に語りかけた。それからその日付が迫り、その芝居はどんどん進行し、僕は自分自身を殺さなかった。臆病からではなかった。僕を止めたのは、一つの記憶だった―V₁が落下した後、部屋に入った時、サラーの顔に浮かび上がった落胆の様相の記憶。彼女は本当に、僕の死を期待していなかったのか、Xとの彼女の新しい出来事は、彼女は初歩的な良心の類を持ち合わせていなかったために、彼女の良心を少しも傷付けていない。もし今僕自身を殺したら、彼女は全く僕のことで気に病むこともありはすまい。そして確かに、共に過ごした僕たちの四年後、そこには、Xと一緒であっても、気苦労の瞬間はあるに違いない。

106

2022年4月2日土曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

その後何日も、当然、僕に希望はなかった。それは単に偶然の一致に過ぎなかった、と僕は思った、電話は応じられなかったし、一週間後、僕がメイドゥに会って、マイルズ夫妻について尋ねると、彼女は田舎で不在だと分かり、僕は戦時中書簡は失われるもの、と自分に言い聞かせた。毎朝毎朝、僕はポウストゥ‐ボクスのがたがたいう音に耳を澄ましながら、意識的に女主人が僕の郵便物を取りに行くまで、僕は二階にじっとしていようとした。僕は手紙に目を通さず、落胆が後回しになるようにして、望みはできる限り息づかせて置いた。僕は順番にそれぞれの手紙を読むことにして、僕が積み重ねの底に達した時、やっとそこにサラーからのものはない、と僕は確信できた。それから四時の郵便まで、生活は色を失い、そしてその後は、再び夜通し電話で連絡することにした。

 およそ一週間、僕は彼女宛に書かなかった。プライドゥが僕を引き留めていた。僕はそれを完全に捨てた。不安の内に書きつつ、苦々しく、北側へ向けた宛先を書いた封筒に、「緊急」と「どうか転送を」と印を付けつつ、終に或る朝、僕はそれを完全に捨てた。僕は返事を貰わず、そこで同時に、僕は希望を放棄した。やがて彼女が何を言ったか、こと細かに思い出した。「人々は、生涯彼の人にまみえることもなく、神を慈しみ続けるでしょ?」僕は嫌気が差して思った。彼女は、常にその自らの鏡に申し分なく姿を映そうとする。彼女は彼女自身に、それを高潔に思わせるために、信仰を捨て去ることと混同する。彼女は、今、彼女がXと寝たいと認めようとしない。

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2022年4月1日金曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

 「爆弾は、二つも一か所に落ちない。」僕は言った。しかし機械的に、それはしばしば誤りを立証して来た迷信の一つだったから。

 「貴方は怪我をしているのね。」

 「僕は、歯を二本失くした、それだけ。」

 「こっちに来て。貴方の顔を私が洗ってあげるわ。」彼女は、僕がもう一つのの異議を行う間もなく、―手当てを終えた。僕が嘗て知り合った女は、同じように速く手当てができない、彼女は僕の顔をゆっくりと注意深く洗った。

 「貴女は床の上で何をしていたの?」僕は尋ねた。

 「祈っていたの。」

 「誰のことを?」

 「生きとし生けるもの全てのことを。」

 「階下に降りた方が、もっと気が利いていたよ。」

彼女の真剣さは、僕を驚かせた。僕は彼女をそのことから離れてからかいたくなった。

 「私はそうしたのよ。」彼女が言った。

 「僕は貴方に聞いていなかったよ。」

 「そこには誰もいなかった。ドアの下から伸びている貴方の腕を見るまで、私には貴方が見えなかった。私は貴方が死んだと思った。」

 「貴女は近付いて、試してみたってよかった。」

 「私はそうした。私はドアを持ち上げられなかった。」

 「あそこには僕を動かすくらいの隙間があった。そのドアは僕を押さえ付けていなかった。僕はどうにかこうにか起きようとした。」

 「私には分からない。私は貴方は死んだものと確信した。」 

 「だったら、そこで随分祈ったんだろうね?」僕は彼女をからかった。

 「奇跡をそっちのけにして。」

 「貴方にはもう望みがなければ」彼女は言った、「貴女は奇跡のために祈れる。そういうことは起きるでしょ?亡くなった人に。そして僕は亡くなった人だった。」

 「警報解除までいなさい。」彼女はその頭を振り、歩いてさっさと部屋から出た。僕は階段を彼女に付いて降り、僕の意志とは逆に困らせ始めた。「今日の午後、貴女にお目にかかれます?」

 「いいえ、だめです。」

 「明日の何時か・・・」

 「ヘンリが帰っているの。」

 「ヘンリ。ヘンリ。ヘンリ―その名は、僕たちの関係が続く限り、鐘を鳴らす。愛が死に絶え、愛着や習慣は日常の努力の末に得るというその無念さと共に、幸福とか楽しみとか、陽気とかのムードゥを悉(ことごと)く削ぎながら。「貴方はそんなに怯えなくていいわ。」彼女は言った。「愛情は尽きない・・・」そうして二年余りが、ホールでのあの出会いと「貴方?」以前に、過ぎ去った。

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