2022年1月20日木曜日

The End of the Summer/Graham Greene 成田悦子訳

僕はサラーに気付き、彼女は上手くやっていたからか、ああした年々、幸せの感覚は近付きつつある嵐の下、長い間瀕死の状態にあった、と僕は思う。誰もが酔い潰れた人々に、子供達に、滅多に他の場所にはないそれに気付いた。僕は、彼女が僕の本を読んだことがあり、その物をそのままそこに置いてあると言ったから、一辺に彼女を好きになった。―作家としてより、寧ろ人間として直ぐに遇された僕自身がいた。何であれ、僕は彼女との恋に落ちようなど見当もつかなかった。彼女は美しかった、美しい女たち、殊(こと)に彼女たちがその上聡明であれば、一つのことに向かって、僕の中の或る深いねじけた感情をかき混ぜる。心理学者が コフェテュア・コムプレクスと名付けたかどうか僕には分からないが、僕は何時も、或る心的又は肉体的優越の感覚無しに、性的欲情を自覚し難いと察していた。彼女について僕が注目したのは、彼女の美と彼女の幸福、それに彼女は彼等を愛しているかのように彼女の手で、人々に触れるという彼女の癖だった。僕は彼女が僕に言った唯一つのことだけ、想い出せる。

「貴方は大勢の人を毛嫌いしているようにしか見えないわ。」おそらく僕が、僕の作家仲間について、手厳しく話して来たからだ。僕は覚えていない。

 それは、何というひと夏だったのか。やってみようとも正確に呼び名を示すつもりもない。ー僕は、凄まじい程の痛みに、どうしてもそこへ引き返さなければならなかったが、その暑苦しく、混み入った部屋を抜けたこと、不味いシェリーを随分飲んだ後、ヘンリと一緒に共有地をどんどん歩いたことを、僕は覚えている。

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