2022年3月21日月曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

 Ⅳ

僕は彼に追い着くか、或いは少なくともフワイトゥホールからの長い距離を先回りして、彼を視界に捕らえようとした。というのも僕は彼の帽子を、僕が持って行ってやりたかったから。ところが彼は何処にも見当たらなかった。僕は何処へ行こうか決めかねて折り返した。近頃、それは最悪の時刻だ。そこにあるのは、有り余るほどのそれ。僕はチャーリング・クロス地下に近い小さな本屋の中を見た。この時間にサラーは、角の周辺で待ち伏せるパ―キスさんと一緒に、シーダー・ロウドゥの粉を塗したベルに、彼女の手を置いているのではないだろうか。仮に僕が時間を巻き戻せたところで、僕はそうしようとしたと思う。僕は、ヘンリを徒歩で側に行かせようとした。ところが僕は、僕に何か出来ることがあるとすれば、とっくの昔に、出来事の道筋の変更をしているのにと疑心暗鬼になるばかりだ。ヘンリと僕は、今や、僕ら流に、連合軍で、無限の潮流に逆らった連合軍だ、僕たちは。

 僕は道路を横切り、露天商を過ぎ、ヴィクトウリア・ガードゥンの中に入った。さほど多くはない人々が、曇った吹きっさらしの中、ベンチに座っていた。僕は、忽(たちま)ちの内に、ヘンリを探し当てたものの、彼と認めるには少々僕には時間がかかった。戸外で、帽子もなく、彼は、匿名の人、放浪者ら、貧しい郊外から上って来た誰も知らない人々―雀に餌をやる老人、Swan & Edger’sと記された茶色い―紙包みを持った婦人と合流したように見えた。

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