ーここは彼の環境に相応しくない。彼の目の白いところが充血しているのに気付いた。おそらく彼は、彼の眼鏡をちゃんと掛けずにいたんだ。ーずうっと、随分大勢の他人がいたし、或いは、それは涙の名残りだったのかも知れないが。「ベンドゥリクス、僕はここでは話せない。」彼は前に何処かで話す習慣でもあったかのように言った。
「サラーは帰るだろうか?」
「僕はそうは思わない。」
僕は飲み代を払った。するとそれが、いっそうヘンリの心配の徴候を露わにした。ー彼は安易に他の人々の持て成しを受け入れたことはない。彼は、僕たち他の者が探し回っている間もなく、彼の掌に準備したお金を握って、車上の人になるのが常だった。公有地の通りは、未だ雨の中を走ったが、そこはヘンリの家に遠くはなかった。彼は、アン女王時代の扇形欄間の下の掛け金を外す鍵を持って、中に入り、呼んだ。「サラー。サラー。」僕は返事を待ち焦がれながらも、返事を恐れはしたが、誰も答えなかった。彼は言った。「彼女は未だ外出中だ。書斎に入って。」
僕は一度も、書斎に入ったことはなかった。僕は決まって、サラーの友人だったし、僕がヘンリに会っても、それはサラーの縄張りの上でのことだった。調和と無縁、終わりも計画性もなく、あらゆる物が、まさしく同じ週に属しているように見えた彼女の居間。何故なら、過去の感覚、或いは過去の多感の象徴として、引き続き残すことを許された物は何もなかったから。全ての物は、そこで費(つい)えた。
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