2008年10月8日水曜日

海に行こう

海に行って
ないな

わたしの部屋から
貴方の歌が消える
わたしの部屋の中の
貴方が消える
わたしの部屋の中の貴方は消えて

私の部屋の窓辺から伸ばした手が
鳥のように
羽を広げるように
幾つも
野を超え海をめざす

貴方が

四角い箱の中にいた

貴方が

心配をしてくれるだけの
貴方ではなく
善意だけの

ヒト

ではなく

打算や薄情や気紛れを持っていて
甦った
私の翼を
傷つけたりする
ヒトで

私は

虚しさだけを青い空に見るのでは
なく
貴方に
憧れるように
飛ぶ夢を見たり墜落して沈んだり
心が砂漠みたいって言ってみたり
失くしていた

熱い
血が

隠し切れない


海に行こう

2008年10月6日月曜日

背の悲曲



素焼きの植木鉢にあたる可視光線の角度や強度は変わらない
開けようとしたサッシュの止まった位置
私の中の竦(すく)み
算段したわけでもない戸惑いがこの日の蔭と日向をつくる
枯れていく季節の楽観的なひだまりに遊ぶ不運

私はここにいて
あなたは埒外(らちがい)にいて
ラスクは硬くて
私はバスの中のシートベルトに縛られて
あなたは重い荷物の理不尽に身動きできなくて
手を振った

いつからか涙ぐむことのできなくなった少女
あなたの長い影が
人の世のギブスに棲(す)む処罰に力なく微笑む
抱き締めたい
抱き締めても抱き締められない背の悲曲

踏みしだかれた秋(とき)の花壇に
終わりのない回り道に
あなたをさがす
駆け寄りたい
うなだれた肩を抱き寄せたい

私は白い黄昏にいて
あなたは上辺で薄情になれなくて
神さえ逃げたあの朝
私はバスの窓を開けて
あなたは残りの未練を捨てて
手を振った

2008年9月13日 土曜日23:31:06

2008.09.25 Thursday 04:00
詩 | - | -

2008年9月25日木曜日

悲しみは



悲しみは 
折りたたんだ洗濯物の
そのたわいもない折り目にさえ 
潜んでいて
クレセンドとデクレセンド 
リフレインして

希望の光は 
ブラインドの隙間を
ブーメランのよう
行きつ戻りつ
飛ぶ鳥でさえ遮って
デクレセンドばかり
リフレインして
消えてゆく

夢を描いては
雨がそぼ降る田舎道 
突然降りた遮断機
潜り抜けもせず飛び越えもせず
ひたすら待つ
単調なメロディリフレインして 
魂ごと閉ざされるユクテ

2008年9月5日金曜日

空色の空間



空色に変わって行く
さまよってなんかいちゃ駄目だよって
わたしのいい人が教えてくれた
いい人はわたしの中に住んでいて
わたしの細胞のひとつなんだけど

たとえばこどものころ外は嵐で
空き缶が転がる音や
昼間遊んだ砂場のおままごと道具が
てんでばらばらに散らばった風景
にみょうちくりんなときめきを覚えたように

整理された有様よりでたらめな有様が好き
しあわせな景色よりふしあわせな景色が好き
それをかたちづくる人が好き
かたちづくる人の弱さのそばで
手を握り締めていることが好き

しあわせはわたしには退屈で
脂肪をたくわえた腹部のようで
怠慢でぶよぶよしていて
いのちに実感がなくて

だけど今日はあまりにも
取り乱した後だから
わたしの周りを空にして
わたしはいい人を呼び出して
この小さなお空で鳥のように飛んでみる

2004年8月31日21時16分


2008年8月21日木曜日

あなたに



刃物を突きつけるみたいに
追い詰め
訂正と修正を求められる幼い日に

あなたの暗い空から
いくつの星が
滲んで
零れ落ちたでしょう

晒すたびに
太陽からもらい受ける手の甲の黒点
背筋を伸ばして
街を美しく歩いても

帰るのは
この庭この家この部屋この机
小さな私

窓の外
屋根で切り取られた
穏やかな空

あの日
瞳の中で揺れた星が
今夜
見えますか

夕日が私の通(かよ)った道に沈んだ



夥(おびただ)しい言葉の息遣い
その背骨が遠ざかるのを見ていた
追い込まれ転がり込む赤裸々な嘲笑
鼠色の貨物列車が身体を通る
鉛筆が閉じた唇の内側で燃え尽き
それじゃあと

傷んだ紙の姿
直角に曲げる事のできない肘関節
土踏まずの蒼い痣

廊下を100周した
並んだ番号が景色だった
何処にも陽は昇らなかったし
夕日が私の通(かよ)った道に沈んだ

悔いはどっちつかずで
呑むみ込むばかりのヒトであったワタシ
嗄(しゃが)れ声の面倒が
ありったけの同意を求めたがり群れを成す
掴んで離さない確信的致死傷界隈の図柄

2008年8月2日土曜日

感情の剰余

世渡りには時の配分と微調整
ねじはせっかちに巻く
ベッドをぐるりと囲む放りっ放しの目覚まし時計
手に負えないものを引きずり込んでは添い寝する
朝の光は散乱を映し

語り下手な私は
爪先立ちでくるくる回って見せる
船底に這いつくばって床を磨く
否定が組み込まれた背骨は切なく捩れて
饒舌な唇を放心して見つめたのは昨日の昼過ぎ

窓際に並んでゆく牛乳パックに
角ばった瞬間の詰まった怒りや涙の枯骨が
どんな風に訪れ葬られて行くのか
深い所にいて
私は眠っていたのか

絶望や希望が海を想わせたのは
まだ春で
乳白色の悔いがやたらこびり付いた
洗面器の中
一人だけの気配を慈しむほか
季節を遣り過ごす手立てもない

縮尺された地球儀の点ほどの居場所も得られない
この当て所ない漂泊
機械のような男の抱擁も
友のひたすらな手も
小窓から差し込む光が暴く幾つもの汚点を見つめた後では
ただ疲労が纏わりつくだけ
見つめれば空気が破れ手のつけようもなく溢れ出す
鬱積した感情の剰余

2008年8月1日金曜日

恋の歌は聴かない

蛇口を開けると水が流れ
しばし流れ
蛇口を閉めると水が止まる
行為があって
躊躇いと確信を反芻し
結末があって

夢は夜見る
夢は朝も見る
白昼夢も
覚めない夢はない
言い切れるほど薄情にはなれない

恋の歌は聞かない
恋の終わりの歌を聞く

始める事も無く終わりを焦がれる
始める事も無く終わりに向って歩く
窓を開けることは無く
カーテンを閉めて廻る

これは習性だから
言い切るほど潔くは無い

目を閉じると見える風景がある
目を開くとここは空っぽの部屋

2005年