2022年7月21日木曜日

The End of the Affair/Graham Greene 成田悦子訳

「それで全部です。」彼は言った。

 「貴方は、どんな権利も持っていない。」

 「オウ、彼女は、今はもう誰にも属さない、」彼は言い、すると突然、僕は彼女を見たような気がした、何の為に、彼女は―片付けられるのを待っているだけの廃物の小片になったのか、もし貴方が僅かな頭髪を必要としたら、貴方は、それを手に入れ、彼女の爪を切り取ることも出来た、もしも爪を切り取ったものが、貴方に価値があれば。聖者のもののように、彼女の骨は、ばらばらに分けられても仕方なかった―もしも誰彼となくそれらを求めたら。彼女は、間もなく焼却されようとしていた、そう彼が真っ先に欲しがったものを、何故誰もが自分のものにしようとしてはいけないのか?何としてでも、僕が彼女を所有したその姿を描くのに、三年もの間、何と愚か者だったことか。僕たちは、僕たちそのものでさえない、誰でもないものによって所有される。

 「僕は済まなく思う、」僕は言った。

 「彼女が僕に何を書いたか知っていますか?」スマイズは尋ねた。「あれは、ほんの四日前でした、」そこで僕は悲しくなった、僕に電話することもなく、彼女は、彼に書く時間を持つしかなかったんだ。「彼女は書きました―私の為に祈って下さい。それは変だと思いませんか、彼女の為に祈るよう、僕に頼むのは?」

 「貴方は、何をしたの?」

 「オウ、」彼は言った、「彼女が死んだと僕が聞いた時、僕は祈りました。」


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