2022年1月7日金曜日

The End of the Affair/Graham Greene  成田悦子訳

  彼はそれを見た。まるでそれが他の誰かのものであるかのように。

 「それにしてもこれは突拍子もない。」彼は言った。「僕は何をあれこれ考えていたのか、解せない。貴方に話したのが最初で、それから貴方に聞いたのがーこの事。人は友だちを介して、人の妻を探ってはいけない。そこでその友だちは、彼女の愛人だと偽る。」]

 「オゥ、済んでないよ。」僕は言った。「しかしどれを取っても、姦通でも、窃盗でも、敵の火刑からの逃走でもない。未完の事は、何れ為される、ヘンリ。それが今風(いまふう)ってもんだよ。僕は自分でそれらの殆どをやってのけた。」

 彼は言った。「お前はいいやつだよ、ベンドゥリクス。僕が必要としたのは、それ相応の話だったー僕の頭をすっきりさせるために。」そして今度は、彼は本当に、ガスの炎に向けてその手紙を持ったままでいた。最後の小片を灰皿に置いた時、私は言った。「名前はサヴィッジ、住所は1ヴィゴ・ストゥリートゥ159か169のどちらか。」

 「それを忘れるんだよ。」ヘンリは言った。「僕が貴方に何を話したか、忘れて。思慮が足りないんだもの。最近、頭痛が酷くなる一方だった。僕は医者に診てもらうつもりだ。」

 「あれはドアだった。」と僕は言った。「サラーが入って来た。」

 「オウ。」彼は言い、「あれはメイドゥだよ。彼女は映画に出かけた。」

 「いや、あれはサラーの歩調そのものだ。」

 彼はドアに向かい、それを開けると、無意識に彼の顔は、上品さと愛情の不合理な塹壕に落ちた。

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