2013年12月27日金曜日

「The Little House(小さな家)」page 1~22

岩波子どもの絵本の「ちいさいおうち」を、年末までに翻訳します。
「The Little House」
story by
Virginia Lee Burton

page1
昔、或る時、一軒の小さな家が、田舎の外れ辺りにありました。
彼女は、感じのよい小さな家でした。
その上、彼女は、頑丈で、申し分なく造ってありました。
彼女を、とても頑丈に建てた、その男は、言いました。
「この小さな家は、金貨や銀貨と引き換えに売られてはならない。彼女の中で暮らす僕達の曾々孫の曾々孫を見る迄、彼女は、きっと残っている。」

page 2
その小さな家は、丘の上に身を置いているだけで、心底幸福で、彼女を囲む田舎の様子を見守っていました。
彼女は、暁に朝陽が昇るのを見届け、夕べに、陽が沈むのを見届けました。
日は、それぞれが、以前のそれと少し異なって、その日の後に続きました。
けれども、その小さな家は、全く変わりません。

page 4
夜な夜な、月が、か細い新月から満月に変わってゆくのを見守りました。
そして、月さえない時、彼女は、星を待ち望みました。
遥か遠く離れた辺りに、彼女は、街の明かりを見る事が出来ました。
小さな家は、街について知りたくなりました。
いったい、どんな人がそこで暮らしたがるのだろう、と不思議に思いました。

page 6
彼女は、季節と共にゆっくりと移り変わる田舎の様子を見てはいましたが、小さな家にとって、時は、急いで過ぎ去ったのです。
春には、昼間が一段と長くなり、日差しがますます強くなります。
彼女は、最も早い駒鳥が、南方から帰るのを待ちました。
彼女は、芝生が緑色に変わるのを見届けました。
彼女は、樹木が芽吹き、林檎の木が一時(いっとき)に花開くのを見ていました。
彼女は、小川の中で、遊んでいる子供たちを見守りました。

page 8
長い夏の昼間、
彼女は、日向に身を置き、葉で自分を覆い隠している木々や、丘を覆う白いフランス菊を見ていました。
彼女は、庭が草木で覆われるのを見守りました。
それから、彼女は、林檎が赤く色付き、熟すのを見届けました。
彼女は、子供達がプールで泳いでいるのを見守りました。

page 10
秋に入り、
昼間が幾分短くなり、夜が心なしか肌寒くなりますと、
彼女は、初霜が、木の葉を、目も覚めるばかりの黄色や、橙色(だいだいいろ)や、赤色に染めるのを見ていました。
彼女は、作物が取り入れられたり、林檎が捥(も)ぎ取られたりするのを見届けました。
彼女は、学校に戻る子供達を見守りました。

page 12
冬に入って、
夜は長く、昼間は短くなり、田舎が雪で覆われますと、
彼女は、滑り降りたり、スケートをしたりする子供達を見守りました。
一年は、一年の後に続きます・・・
林檎の樹は、老い、新しい木が植えられました。
子供達は大人になり、街に行ってしまいました。
そうして、今では、夜になると、
街の明かりは輝きを増し、密集しているかのように思えました。

page 14
或る日、
小さな家は、曲がりくねった田舎道を、馬が牽(ひ)かない車が下って行くのを見て、驚きました。・・・
かなり急速に、そうした車が、路上の大半を占めるようになり、そうして、殆どの車は、馬で牽(ひ)かれなくなくなりました。
かなり急いで、多勢の測量技師がやって来て、小さな家の前で、道筋を測りました。
瞬(またた)く間に、蒸気シャヴルがやって来て、フランス菊で覆われた丘を通る道を掘り返しました。・・・
それから、何台ものトラックがやって来て、道に大きな石をどすんと落とし、次に、砂利を積んだ何台ものトラックが、その次に、コールタールピッチと砂を積んだ何台ものトラックが、そして最後に、蒸気ローラーがやって来て、それをすっかり平らに均(なら)し、そうして、道は、出来上がりました。

page 16
今はもう、小さな家は、トラックや自動車が往き来するのを見守っています。
ガソリン・ステイション・・・
道端の店・・・
そのように、小さな家屋が、出来立ての道路の後に続きました。
誰も彼も、そして何もかもが、以前より今の方が、遥かに速く進みます。

page 18
更に多くの道路が造られ、
そして、田舎は、多くの人々に振り分けられました。
更に多くの家屋や、更に大きな家が・・・
アパートメントゥやテネメントゥ・・・
学校・・・お店・・・そしてガリッジが田園を覆い尽くし、小さな家の周りを、ぎゅうぎゅう詰めにしました。
誰も、彼女の中に住んで、これ以上、彼女を管理しようとは思わなくなりました。
彼女は、金貨か銀貨と引き換えに、売られそうもありません。
そう、彼女は、只、そこに留まり、見物しているしかなかったのです。

page 20
今はもう、夜になっても、さほど静かでも、平穏でもありません。
今はもう、街の明かりが冴え、確実に追い迫り、街灯が夜通し輝いています。
「これが、街での暮らしに違いない。」と、小さな家はつくづく思いました。
実のところ、彼女がそれを好むかどうかは、お構いなしだったのです。
彼女は、フランス菊の野原や、月の光にゆらゆら揺れる林檎の木がない事を寂しく思いました。

page 22 
かなり急いで、小さな家の前を往き来する市街電車がありました。
それは、日中と夜間、往き来しました。
誰もが実に忙(せわ)しなく、誰もが急(せ)いているようでした。

16:22 2013/12/27金曜日