2011年6月19日日曜日

貴方と私の隔たり

西島三重子 夕闇のふたり

「仕合わせにする」と貴方は言った
仕合わせになるとは
誰かに付き添われることだと貴方は教えたかった
私は
「大丈夫、一人で」
貴方を見て言った

貴方はそれでも何度も「仕合わせにしたい」と言う
貴方は決めていた
私がまるで不仕合わせな女であるかのように

貴方の与える心算の仕合わせに含まれるのは
私の存在の確実性と
私との隔たりが距離的に心理的に問題ないという確信

激しい肉や情は洗濯物のように畳んで仕舞わなければならなかった私の容(かたち)
隔たりは縮むことのない貴方や私といった存在の不動の認知
私自身の存在でさえ確実とは言えなかった
ウィスキーを一本ストレートで開けると何時までも眠り続けることが出来た
ビルの屋上に立てば落ちる硝子に
海に向かって歩き続けると沈む舟に
贅沢な選択なら幾つも転がっていた
街角に生命そのものの仕組みに

仕合わせが貴方から私に誕生日の日にプレゼント出来るものであったなら
私が仕合わせという贈り物を仕合わせだと感じることが出来る女であったなら
仕合わせは貴方と私の間に定めのように有ったでしょう

22:19 2011/05/16月曜日